独り暮らしや老老介護、日中独居の高齢者の増加に伴い、高齢者を見守るサービスが増えてきました(*1、2)。歩行が不安定で転倒が多い。認知症があって、よく、ふらりと独りで出かけていく。ケアマネジャーの方などは、そんな高齢者や家族に、見守りサービスの利用を提案することも多いと思います。
転倒リスクのある独居には見守りサービスが有効
たとえば、脳梗塞の後遺症で軽い右マヒがある、パーキンソン病の女性のケース。死ぬまで自宅から離れたくないと、一軒家に独りで暮らしています。パーキンソン病の人は歩行が不安定になりがちです。歩き始めの一歩が出にくい。歩幅が小さい、すり足の小刻み歩行になる。歩き出すと突進するように止まらなくなる。そんな特徴がある病気なので、家の中ではつかまり歩きをしています。ケアマネジャーは、転倒の際など何かあったときすぐに連絡できるよう、女性に家の中でもいつも携帯電話を身につけるよう伝えていました。
ところがある日、たまたま携帯をテーブルの上に置いたまま立ち上がったとき、バランスを崩して転倒。起き上がれなくなってしまいました。テーブルの上に置いた携帯電話を取ろうと手を伸ばしても、どうしても届きません。女性は、結局、翌日、いつものように訪問したヘルパーが気づいて救急車を呼ぶまでの約20時間、そのまま動くことができませんでした。
幸い、気候のいい10月だったので大事に至りませんでした。しかし、もしこれが夏の熱帯夜だったら、脱水で命に関わったかもしれません。不安を感じたこの女性は、老人ホームに入ろうかなど、気の弱いことを言うようになりました。そこでケアマネジャーは、女性に首から提げられる緊急通報端末の利用を提案。女性は独り暮らしを続ける気持ちを取り戻したそうです。
見守りサービスの提案がプライドを傷つける場合も
この女性のように、本人が転倒や持病の急変などについて不安を感じている場合は、見守りサービスの利用が有効です。何かあったとき、すぐに助けに来られる親族がいなくても、通報すればスタッフ等が駆けつけてくれる。そんなサービスの利用は、安心を与えてくれます。
しかし、難しいのは、不安や心配を感じているのが本人ではなく、家族や介護職など、周囲の人たちである場合。周囲が見守りサービスの利用を勧めても、本人が見張られているように感じ、いやがる場合があります。あるいは、自分はまだまだ元気でしっかりしている。そう感じている本人に「見守りサービスを利用して」ということで、プライドを傷つけてしまう場合もあります。
“自由”と“安全”のバランスをどう取るか
見守りサービスに限らず、介護職は支援に際して安全を第一に考えがちです。しかし、安全を優先すると自由が制限される場合も少なくありません。自由が制限されることを、“束縛”と感じる人もいます。
自由を制限されて安全に暮らすことと、危険があっても自由に暮らすこと。それはどちらが正解、というものではありません。どこまでの束縛なら本人が受け入れられるのか。どこまでの危険ならやむを得ないと、家族も本人も思えるのか。両立しにくい“自由”と“安全”のバランスをどう取るかは、各高齢者、各家族によって違います。
その折り合うポイントをどうやって見つけ出すか。
まずはじっくり、本人の思いに耳を傾けることが大切です。安全を重視しすぎて、本人の思いを置き去りにしないよう気をつけて支援したいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
(*1)「高齢者見守り」充実 日本光電やセコムが新サービス (日本経済新聞 2015年10月28日)
(*2)通報や在宅確認 高齢者の見守りサービス広がる (日本経済新聞 2015年12月17日)