介護職は本当の感情を抑え込む?
介護職は、
「感情労働」だといわれています。
感情労働というのは、その場面で求められている、あるいはその場面にふさわしい感情を示すために、
自分自身の本当の感情を抑え込み、感情をコントロールする必要がある仕事を指しています。
元々は、航空機のキャビンアテンダント(客室乗務員)がその代表例とされていましたが、今は、看護師や介護職、企業の苦情処理担当なども感情労働に当たるといわれるようになりました。
本当の感情を隠すための「演技」は危険!
感情労働を続けていくには、自分の本当の感情を抑え込む必要があります。
介護職をはじめとした援助職には、「相手に対して怒ってはいけない」と、自分を厳しく律するよう努めている人が少なくありません。
確かに、怒りの感情をそのまま他者にぶつけるのは望ましくありません。しかし、中には、「怒ってはいけない」ことを、
「他者に対して怒りの感情を持ってはいけない」と誤解している人が見受けられます。
怒りの感情を持つと、その感情を相手にぶつけてしまうのではないかという不安があるのかもしれません。あるいは、過剰に「いい人」であろうとしているのかもしれません。
「怒ってはいけない」と自分に制限をかけると、他者にネガティブな感情を持たないよう、自分の感情を抑えるくせがついてしまうことがあります。
怒りの感情を押さえ込むために、笑ってやり過ごしたり、苦手だと言って避けたり。
本当の感情を隠すための「演技」を続けると、本当の感情の間でこころは次第にすり減ってしまいます。
すると、他者の自分に対する言動に、怒ったらいいのか泣いたらいいのか笑ったらいいのか、わからなくなってしまうことがあります。本当の感情と、自分自身が切り離されてしまうからです。
この状態が続くのは危険です。
本当の感情を見失い、取り戻すのに時間がかかってしまうかもしれません。
こころの中で「怒り」を感じてもいい
そうならないために、まず「怒ってはいけない」というのは、「他者に怒りの感情を安易にぶつけてはいけない」ことであって、
「怒りの感情を持ってはいけない」わけではないことを、はっきりと認識することが必要です。
どんな感情も、自分のこころの中で感じるのは自由です。
その自由を制限しては、必ずストレスがたまり、どこかにひずみが生まれます。
「怒鳴りつけたい」「殴りたい」「殺してやりたい」など、非常にネガティブな感情を抱いたとしても、それをこころの内にとどめておく分には誰に責められることでもありません。
ただ、そうした感情を抱いたとき、客観的に「今、自分は怒鳴りつけたいと思っているのだな」などと、少し離れたところから自分を見てみることが大切です。
そうすることで、自分自身の中が「怒鳴りつけたい」という気持ちでいっぱいにならず、『自分』と『「怒鳴りつけたい」という感情』との間に「すき間」をつくることができます。
そうすればもう、「怒鳴りつけたい」という気持ちに、自分が支配されることはありません。
支配されなければ、怒りの感情を相手にすぐさまぶつけるようなことにはなりません。
自分のためのストレス対処方法を見つけておきましょう
ただ、そこで感じた怒りの感情は、何らかの方法で軽減する必要があります。
ストレスを高めないために意図的に行う対処方法である「ストレスコーピング」を、いろいろ見つけておくことが大切です。
怒りを感じたときのコーピングであれば、例えば、友人に愚痴を言って吐き出す、おいしいものを食べる、飲みに行く、運動をして発散する、週末の楽しいレジャーの計画を思い浮かべる、優しい友人の顔を思い浮かべる、といったことを思いつくかもしれません。
確かにそうしたこともいいコーピングです。
しかし、実はもっと簡単ですぐにできる、手軽なコーピングもいろいろあるはずなのです。
たとえば、あくびをする、目をつぶる、手をマッサージする、足踏みをする、水を飲む、飴をなめる、ガムをかむ、など。
そんなことがコーピング? と思うかもしれません。
しかし、少しでも
ストレスを軽減できるなら、どんなことでも「コーピング」として活用できる可能性があります。
自分なりのコーピングを、思いつく限り書きだしてみるとよいでしょう。
その中で、
「手軽にできて」「効果があり」「誰にも迷惑をかけない」ものを選び、実践してみるのです。
できるだけたくさんのコーピングを持っていると、怒りや落ち込みなど、自分にストレスのかかる状態から脱しやすくなります。
これからも、介護職という感情労働を続けていくために、怒りなどのネガティブな感情を持つことを否定せず、
感じることを自分に許してほしいと思います。
そして、たくさんのコーピングを持ち、ネガティブな感情とも上手に付き合っていけるようになってもらえればと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>