申請した市区町村によって、要介護度が変わる?!
介護保険サービスを受けられる量を左右する
『要介護度の認定』に市区町村によってバラツキがあるという記事が、2020年3月に全国紙のトップで報道されました(*)。
コンピュータによる一次判定を、99%の市区町村が独自基準で変更していることを指摘。変更の基準が明文化されておらず、一次判定を受けて、二次判定を行う介護認定審査会も非公開であることを問題だとしています。
介護職の皆さんは周知のことと思いますが、念のため、ここで
要介護度認定の流れを簡単に説明しておきます。
■要介護認定の流れ
介護保険サービス利用を希望
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【申請】「要介護認定・要支援認定申請書」を本人または代理人が市区町村の担当課または地域包括支援センターに提出
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【認定調査】認定調査員が本人と面談し心身の状態を調査し、「要介護認定調査票」を作成
【主治医意見書】本人の主治医が、市区町村から送付された「主治医意見書」を作成し、返送
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【一次判定】「要介護認定調査票」と「主治医意見書」をもとにコンピュータが要介護度を判定
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【二次判定】保険医療福祉の学識経験者5名程度による「介護認定審査会」で、認定調査票の「特記事項」(※)をもとに、一次判定の変更の必要性を検討し、要介護度を判定。結果を市区町村に通知
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【決定】市区町村が要介護度を決定し、本人に通知
※特記事項……認定調査での聞き取り等から、マークシートにチェックする調査項目だけでは伝わらない、介護の手間に関わる本人の心身状況や介護実態を1行の短文にまとめて、認定調査票に記述したもの。二次判定で、要介護度を変更する根拠となるのは、この「特記事項」や「主治医意見書」の内容。
要介護認定の「地域格差」が問題に
厚生労働省は、記事で指摘されている二次判定での要介護度の変更について、平成18(2006)年度時点で、下記の通り把握しています。
認定調査や介護認定審査会における審査判定など、介護保険制度における要介護認定については、全国一律の基準に基づき、客観的かつ公平・公正に行われるべきところであるが、各保険者における要介護認定の状況については、地域格差が生じている等の指摘を受けている。
(厚生労働省「平成22年度事業評価書(事後) 要介護認定適正化事業」より引用)
こうした状況を踏まえ、厚生労働省は平成19(2007)年度から
「要介護認定適正化事業」をスタートさせました。
平成22(2010)年度の報告書には、下記のような記述が見られます。
介護保険は、介護サービス利用に関する国民の権利を普遍的に保障する全国的な制度であり、要介護認定は全国どこで申請しても統一された基準に基づいて審査されることが基本原則となっている。しかし、各自治体における要介護認定の実態をみると、自治体によっては、要介護認定のプロセス、とりわけ介護認定審査会において「介護の手間に係る審査判定」や「状態の維持・改善可能性にかかる審査判定」など独自の運用方法を設定したり、勘案すべきでない項目を勘案している場合が一定程度あるといった問題がある。
(厚生労働省「平成22年度事業評価書(事後) 要介護認定適正化事業」より引用)
当時から、介護認定審査会での審査判定には、不適切な独自の運用があったことがわかっていたのです。
要介護認定に必要なのは、全国一律の基準か自治体ごとの独自基準か?
この「要介護認定適正化事業」では、介護認定審査会に厚生労働省職員等の「認定適正化専門員」が同席。
「技術的助言」という形で審査会後に要介護度の判定について指摘し、重度化判定をくつがえすケースもあったそうです。
「要介護認定適正化事業」により、認定調査員や介護認定審査会委員への研修なども強化されています。しかしそれでも、記事で指摘されているように、自治体によるバラツキは今も解消できていないということですね。
一方で、「要介護認定適正化事業」が始まってから、認定調査を受けた要介護者を知るケアマネジャーや介護職からは、「要介護度が実態より軽く出る」という声をしばしば耳にするようになりました。「適正化」=「給付抑制のための軽度化」とも言われています。
記事中には、認定は市区町村の自治事務だから自治体が独自基準を設けてもおかしくない、という意見が紹介されています。
確かに、介護保険は地域保険ですが、前述の通り、厚生労働省は「
要介護認定については、全国一律の基準に基づき、客観的かつ公平・公正に行われるべき」という見解です。
介護認定審査会でどのような勘案がなされ、
要介護度の判定が変更されているのか。市区町村は、明らかにするべきだと言えるでしょう。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*要介護度 ばらつく認定(日本経済新聞 2020年3月7日)