「ヤングケアラー」の調査に、当事者からの反響多数
実態の把握が難しかった
「ヤングケアラー」。
病気や障害、精神的な問題を持つ家族の世話や介護を担っている子どもたちのことです。正式な定義はまだありません。
2020年3月、ある新聞社がこのヤングケアラーの存在を、総務省の就業構造基本調査のデータを活用し、可視化しました。その記事には多数の意見が寄せられ、意見を特集した記事が新たに掲載されました(*1、2)。
反響特集では、元ヤングケアラーの声も紹介されていました。
親に代わって、祖父母や障害のあるきょうだいの世話をする。あるいは、障害やアルコール依存症などのある親の世話を、子が担わざるを得ない状況に置かれている。
しかも、そうした生活実態が、学校や友人を含む周囲に知られていない。知られていても、「えらい」「よくできた子」と、傍観者的に評価されるだけで、何の介入もないまま置き去りにされてしまう。
そんなヤングケアラーの過酷な実態の一端が明らかになりました。
手が足りず、きょうだい児に障害のある子の世話を手伝ってもらっている親、自身の障害などにより、子どもの力を借りざるを得ない親の苦悩も紹介されていました。
『本当は、世話を担わせたくない。』『子どもの時間を奪っている。』という罪悪感があるというのです。
ヤングケアラーの存在を全く知らず、ショックを受けたという介護職の声もありました。
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介護・福祉サービスの『申請主義』で置き去りにされるケアラーたち
日本では、「家」という閉鎖的な空間で起きている問題に、周囲が気づいたとしても、「見ない」「触れない」ことが、長い間、「暗黙の了解」のようになっていました。
それが、家庭内の問題も周囲が気づいたら見過ごしてはいけないと、社会が変わり始めたのは児童虐待防止による通告の義務化の頃からでしょうか。ここ20年ほどの間での変化です。
介護保険制度においても、介護家族支援に目が向くようになったのは、介護離職が社会問題化した、数年前からのことです。
介護する「大人」がやむにやまれず仕事を辞めることが、産業界で問題になり、社会の目が向いたという段階です。
実は、
家族のケアを担っている子が相当数いる。そして、その子たちは、ケアを担っているために、子どもらしい生活を送れずにいる。そこには、今までなかなか思い至らなかったということですね。
新聞社によるデータ集計では、介護を担っている15~29歳の
ヤングケアラーは、約21万人いることが明らかになっています。
それより若い世代を加えると、一体どれほどの人数になるだろうかと思います。
子どもたちの力を借りなければ、家庭内でのケアが滞る状況だとすれば、親もまた余裕がない状況にあることが推察されます。
介護保険や障害福祉サービスなど、日本の介護福祉制度は申請主義です。知識や情報が不足している家庭では、利用できるサービスがあることを知らない、手続きの仕方がわからないために、家族でケアを担い続けているケースもあると思います。
介護職は、地域のケアラーの情報をキャッチして
必要な家庭に必要な情報が届かないという状況は、変えていかなくてはなりません。
3月に埼玉県が、全国で初めてケアラー支援条例を制定したことは、以前、お伝えしたとおりです(*3)。相談できる場がなく、相談できる相手もなく、家族のケアに閉じ込められていく子どもたちとその家族に、介護職の立場でできることは何でしょうか。
今は、新型コロナウイルス感染防止で休止中が多いですが、
子ども食堂などは、ケアを担う子どもたちと介護福祉関係者が、アクセスしやすい場かもしれません。
感染状況が落ち着いて学校が再開されたら、介護についての出前授業などに出向き、相談できる場について伝えていくこともできそうです。
何より、介護職には、日頃のサービス提供の過程で得た、地域住民の気になる情報をそのままにせず、地域包括支援センターなどの
支援機関につないでほしいと思います。
人と人とのつながりが希薄になりがちな現代社会において、要介護者やその家族と濃密な関係を結び、個々の家庭の「濃い」情報にアクセスしやすいのは、やはり介護職です。
その特性を生かし、ぜひ地域で
「おせっかい力」を発揮してもらえればと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>
*1
ヤングケアラー~幼き介護 反響特集(その1)家族のため、子に重く(毎日新聞 2020年5月5日)
*2
ヤングケアラー~幼き介護 反響特集(その2止)支援や啓発、求める声(毎日新聞 2020年5月5日)
*3
全国初、ヤングケアラー支援条例 埼玉県で成立 県機関が連携し支援、実態把握(毎日新聞 2020年3月27日)