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2022年04月13日

次期介護保険法改正審議スタート 医療・介護のニーズ急拡大

次期介護保険法改正審議スタート 医療・介護のニーズ急拡大

厚生労働省は3月24日、1年8カ月ぶりとなる社会保障審議会介護保険部会を開催し、2024年度の介護保険法改正に向けた議論をスタートした。3年間を1期として運営されている介護保険制度。次の第9期(24~26年度)中には、団塊の世代が全て後期高齢者となる2025年を迎え、その後は医療・介護ニーズの急拡大と15年間で1000万人超の生産年齢人口減少が並行して進む。同部会の江澤和彦委員(日本医師会)は、25年から40年の15年間を「国難」と表現し、制度の抜本的な見直しの検討を呼びかけた。第8期で継続検討とされている課題や、財政制度等審議会や規制改革推進会議などから引き継ぐテーマもある。年内の取りまとめに向けて、どのような議論が繰り広げられるのか。注目が集まる。

35年、85歳以上1000万人に

85歳以上の人口の推移
次期改正に向けた議論のキックオフとなった今回は、委員の入れ替えに伴い、部会長に菊池馨実氏(早稲田大学法学学術院教授)が就任した。菊地氏は、社会保障審議会、政府の全世代型社会保障構築会議や公的価格評価検討委員会の委員も務めている。

この日は、まず事務局より介護保険制度をめぐる最近の動向が説明され、その後、各委員がフリーディスカッション形式で次期改正に向けた意見を述べた。

事務局説明では、厚生労働省老健局の橋本敬史総務課長が「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に地域包括ケアシステムを実現することとしている。この2025年が、次期、つまり第9期の介護保険事業計画期間中に訪れる」と強調した。

また、日本の人口動態について、「前年比の伸び率をみると75歳以上のピークが23年、85歳以上は33年にピークを迎える」と説明。35年時点の85歳以上人口は1000 万人を超える見込みだ。要介護認定率は、75歳以上で32.1%、85歳以上だと60.6%となっている。

人口1人あたりの介護給付費も80~84歳が年間33.1万円に対し、85~89歳で71.3万円、90~94歳で143.6万円と85歳以上で急増する。

介護職員の大幅増「非現実的」

第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数
一方で、25年以降は生産年齢人口が急減。国は、介護職員の必要数について2040年度時点でおよそ280万人と試算する。19年度の211万人から、新たに69万人の確保が必要となる計算だ。「人手不足中で、介護職員を大幅に増やしていくのは非現実的。少ない介護職員で多くの要介護者をみる施策を進めることが最も重要」(全国老人保健施設協会・東憲太郎委員)など、多くの委員から、介護ロボットやICT、介護助手活用をさらに推進した生産性向上を図るべきとの意見が挙がった。

UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの染川朗委員は、「当組合の調査によると、介護職員の賃金と全産業平均との差は縮小してきたが、是正までは至っていない。3分の2が現在の賃金に対する意識について不満を持っている。今後も、一層の処遇改善を進める必要がある」と主張した。また、全国老人福祉施設協議会の桝田和平委員は「人手不足にコロナ対応も加わり、現場の肉体的・精神的疲労は計り知れない。単に処遇改善や効率化ではどうしようもない状況が前提にあり、対策を検討しなければならない」と訴えた。

「給付と負担」 も再び遡上へ

費用増加の推移をみると、創設された00年の3.2兆円(利用者負担除く)に対し、19年度には10.1兆円となっている。費用の伸びに伴い、第1号保険料は月額2911円(第1期)が6014円(第8期)に、第2号保険料も2075円(00年度)から今年度は6829円を見込んでおり、ともに保険料負担は大幅に増加している。

前回改正で同部会がまとめた意見書で、給付と負担の見直しのテーマでは「引き続き検討」とされたものも多い。▽居宅介護支援費(ケアマネジメント)への自己負担導入▽2割、3割負担対象者の拡大▽要介護2までの生活援助サービス等の総合事業移行▽老健、介護医療院、介護療養病床の多床室の室料負担導入▽被保険者・受給者範囲の拡大――などがそうだ。保険料を負担する日本経済団体連合会常務理事や健康保険連合会などが、これらの実施を求めている。

一方で、反対意見は「第8期で引き続き検討とされたテーマのなかでも、特に2割以上負担対象者の拡大、ケアマネジメントの自己負担導入、多床室の室料負担導入は、我々当事者への影響が大きい。利用の抑制やそれに伴って多くのリスクが増大することが容易に想像される」(認知症の人と家族の会・花俣ふみ代委員)、「居宅介護支援費が自己負担となれば、結果的に自治体や地域包括支援センターといった他の窓口が対応に追われたり、あるいは社会的入院・入居の増加など、かえって社会コストが大きく膨らむことも懸念される。介護保険の意義や理念が失われないよう現行制度の維持が必要」(日本介護支援専門員協会・濵田和則委員)などの声があがっており、これまでと同様に賛否が分かれている。

また、杖や手すりなどの福祉用具について貸与種目から販売へ移行させる議論がすでに、「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」で始まっている。

「小手先では乗り切れない」

その他にも、25年、40年を乗り切るために、抜本的な見直しの議論を求める声もあがった。

「65歳以上を超えても、現役で元気に働く高齢者は多く、またそうした人は自分が高齢者だとは思っていない。介護保険が始まって20年以上が経った今、第1号被保険者の対象について再検討すべきではないか」(全国老施協・桝田委員)、「2040年以降の人口構造を見据えた時、保険者が市町村のままで、制度の持続可能性を担保できるのか。広域化も含めて、さまざまな検討をすべきではないか」(全国市長会・大西委員)、「2025年から40年は国難ともいえる期間。適正化のみでは乗り切れないかもしれない。保険で支えるのが限界であれば、今以上に公費を投入する余地があるのか、公費と保険料のバランスにも踏み込んで議論すべき。小手先では乗り切ることができない」(日本医師会・江澤委員)。

規制改革など多方面からの提起も

現在、厚労省以外でも、介護保険分野の議論がなされ、さまざまな提起がされている。これらを踏まえた議論も同部会や介護給付費分科会で行われると予測される。

2月に始まった「介護職員処遇改善支援補助金」の議論を行ってきた公的価格評価検討委員会は、中間まとめで、「今後の処遇改善を行うに当たっては、これまでの措置で明らかになった課題や対象外となった職種も含め、検証を行うべき」と明記した。

同補助金や10月以降の「介護職員等ベースアップ等支援加算」は介護職員処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)の算定が要件とされており、居宅介護支援事業所、訪問看護・リハビリテーション、福祉用具貸与などが対象から外れている。日本看護協会は「訪問看護など介護領域に従事する看護職員の処遇改善について、新たな仕組みと財源が必要」と主張する。

政府の規制改革推進会議では、ロボットやICT活用などにより、施設の3対1の配置基準を緩和することが提起され、波紋を広げた。今年2月の同会議のとりまとめでは、「厚生労働省の実証を通じて、実際に介護の質が維持されること、介護職員の負担増につながらないことが客観的に検証される必要がある。その上で、介護職員の処遇改善等を企図する人員配置基準の特例的な柔軟化の可否について、速やかに介護給付費分科会において議論を行い、判断される必要がある」と結論付けた。

こちらは来年以降の介護給付費分科会で本格的な議論になるとみられる。

<シルバー産業新聞 2022年4月10日号>

   

   

 

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