毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「介護職を目指したきっかけは小学校時代」という話題を紹介します。
小学校での老人ホーム訪問がきっかけで介護職を目指すことに
ニュース番組や新聞などでご存知の方も多いだろうが、介護業界は人手不足が大変深刻な状態だ。
2015年に厚生労働省が発表した「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」によれば、2025年に必要な介護人材は253万人なのに対し、介護人材の供給見込みは215.2万人にしか達しておらず、需給のギャップは37.7万人にも上っている。
このため政府は、外国人労働者の受け入れ拡大を検討するなど、対応策を必死に練っているのが現状だ。
そんな中でも、都内のある特別養護老人ホームではこの4月、不安要素をほんの少しでも和らげるようなニュースがあったという。
採用や面接を担当するイノウエさんがいう。
「今年ウチの施設に入った新人の内2人が、介護業界に入ったきっかけとして、小学校時代の老人ホーム訪問を挙げたのです」
イノウエさんによれば、入社前に介護のボランティア経験があった人はこれまで何人かいたものの、志望理由として小学校時代の老人ホーム訪問を挙げた人は初めてだったそうだ。
小学校の時の経験が、介護を仕事に選ぶきっかけになったのはなぜなのか?
新人のイトウさんが語る。
「小学4年生の時のことだったのですが、社会科の授業で『学校の周りを調べてみよう』という課題が出たのです。私のグループは、学校のすぐ近くにあった老人ホームについて調べることになりました。
実際に老人ホームに行って、そこで働く介護職の方たちに話を聞いたり、施設を案内してもらったり、そこで暮らすお年寄りに話を聞いたりしました。
後日、老人ホームへの訪問レポートを授業で発表したところ、そのレポートが表彰されたんです」
そのときの成功体験が強く印象に残っていて、介護の仕事に興味を持ったのだとイトウさんはいう。
一方、もうひとりの新人・テラダさんの思い出は、こんなものだ。
「小学5年生の時に、『総合学習』という時間があり、老人ホームのお年寄りと触れ合う時間がありました。授業では、少子高齢化が進むとどうなるかや、バリアフリーの大切さ、お年寄りの方たちがどんな時代を暮らしてきたか、といったことを学んだ上で、老人ホームを訪問したのです。
老人ホームでは、グループに分かれてお年寄りから話を聞いたり、一緒にゲームをしたりして過ごしたのですが、お年寄りたちがみな、私たちが来ることを本当に楽しみにしてくれていたのが伝わってきました。
そのことがずっと記憶にあって、高校を出て就職する際に介護の道を選びました」
介護人材を増やすために、お年寄りと触れ合うきっかけを作りたい
2人の話を聞いたイノウエさんは、こう語る。
「介護業界で働きたいと思う人がなかなか増えないのは、結局、お年寄りと触れ合う機会が少ないだけなんですよね。機会がないから『お年寄りは何を考えているか分からない』『お年寄りは気難しい』『お年寄りは怖い』などと思ってしまう。
長い人生を生き抜いてきたお年寄りからは、必ず学ぶことがあります。
ウチの施設では、小学生を招いて何かをすることはしてきませんでしたが、新人2人の話を聞いて、『ウチの施設でも何かやろうか』と話しています」
教室での勉強はもちろん大事だが、日本のためにも、そして何よりも子どもたちのためにも、小学生を対象にした施設見学などの活動も積極的に行っていきたいもの。
介護業界の人材確保については悲観的な見込みが飛び交うばかりだが、人手不足解消のアイデアは、意外と身近なところにあるのかもしれない。