毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「ヘルパーの訪問を嫌がるお年寄り」という話題について紹介します。
時間通りに訪問しても、玄関を開けてくれない利用者
仕事をしていると、時にはつらいこともあるもの。これから介護業界を目指す人に向けて、これもひとつの現実として、ある訪問ヘルパーの不条理な体験を紹介しよう。
都内の訪問介護事業所で働くタナカさんは、なんともう少しで犯罪者扱いされるところだったという。
タナカさんが語る。
「Yさんという男性は、妻を亡くしたことで意気消沈。家事が一切できなかったこともあって、生活が一気に荒れてしまいました。
しばらくはよそに嫁いだ娘さんが頻繁に足を運んで面倒を見ていたようですが、限界を感じ、ヘルパーを頼むことになったようです。
Yさんはお風呂にも入らず、食べ物もロクに食べておらず、セルフネグレクト(自己放任)のような状態でした」
娘さんから「よろしくお願いします」と頼まれ、Yさんのお宅を訪問することになったタナカさん。しかし初回からトラブルが発生する。
「決められた時間に伺ったのですが、いくら呼び鈴を押してもYさんが出ないんです。しょうがないので娘さんに連絡し、娘さんからYさんに連絡を取ってもらうことに。
すると、ブツブツ言いながら玄関を開けてくれたんですけど、その後も同じことが続きました。
どうもYさんは、『知らない人が来ると疲れる』『知らない人に世話されたくない』などと言っていたようです」
他人から世話されることを拒む高齢者は決して少なくない。「身内に世話をして欲しい親」と「世話ができない身内」がモメるのは、よくある話。
しかしYさんのケースは、酷い結末となってしまった。
危うく犯罪者に!?それでも訪問ヘルパーを続ける理由
「あるとき、Yさんがウチの事業所に電話をして、『もうスタッフをよこさないで欲しい。家からお金がなくなった』と訴えたんです。
それが事実なら大変なこと。すぐに上司が『事情を聞きに伺います。場合によっては警察にも連絡しないといけませんので』と言うと、『いや……、警察とかそういうのはいいから。……とにかくもう来ないでくれ』と。
上司が『そういう問題ではありませんので』と食い下がると、『お金の件は勘違いかもしれない……』と、嘘を認めたんです。
上司も『さすがにこれはもう無理ね』と、Yさんの娘に連絡し、訪問は打ち切りになりました」
一瞬でも泥棒扱いされたことが悔しかったタナカさんは辞表を出したものの、上司から強く説得され、今もヘルパーを続けている。
Yさんは認知症ではなかったが、認知症が進んで被害妄想が激しくなり、「お金がなくなった」と訴える事件は少なくないそうだ。
タナカさんはこう振り返る。
「それでもヘルパーを続けているのは、利用者に『ありがとう』と言ってもらえるのが嬉しいからです。
お礼を言ってもらうために働いているわけではありませんが、最初のうちはそれが目的でも良いんじゃないかと思います。
そうやって経験を積んでいけば、どんな利用者からも感謝してもらえるようになります。今は、『私がYさんにしてあげられることはなかったのかな』と、反省しています」
この境地に達するのはなかなか難しそうだが、それだけやりがいがあるのが介護の仕事。飛び込んでみる価値は十分にありそうだ。