毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「人生初のスカウト」という話題について紹介します。
資格もないのに、介護職にスカウト?!
優秀な人材を引き抜くときに使われる「ヘッドハンティング」「スカウト」「一本釣り」といった言葉。
プロスポーツ選手やビジネスシーンの最前線では当たり前に使われているが、世の中を広く見渡せば、こういった単語とは一生縁がない人が大多数のはず。
しかし現在、都内の介護付き有料老人ホームで働くサノさんは、“スカウト”されて介護職に転身した変わり種だ。
現在60代のサノさんは、介護付き有料老人ホームの職員として働き始めて3年目。20代で結婚して以来、専業主婦をしたりパートに出たりといった人生を歩んできたが、フルタイムで働くのは現在の老人ホームが初めてだ。
介護の資格など、特別な資格は1つもなかったサノさんがなぜ介護職にスカウトされたのか?サノさんの上司であるタカギさんが語る。
派遣の清掃スタッフだったサノさんが、なぜ介護職に?
「サノさんはもともと、ウチの施設で清掃スタッフとして働いていました。ウチの施設では、トイレ、廊下、洗面所、食堂、エントランス、施設周辺など、あらゆる清掃業務を外部に委託しており、サノさんは、ビルや店舗などの清掃メンテナンスを請け負う会社から派遣されてきたスタッフのうちの1人だったのです」
従来は、清掃スタッフと施設の職員は目礼をする程度で、交友は一切なかったそうだが、週4回、休憩を含めて1日8時間も働き、利用者さんにも明るく挨拶をするサノさんとは、職員も自然と会話を交わすようになったという。
「利用者さんの中にはサノさんのことを施設の職員だと思っている人もいたほどでした。
気が付けば“清掃スタッフと施設職員”という垣根は無くなり、ある時、一緒にごはんを食べに行くことになったんです」
その老人ホームは女性のスタッフが圧倒的に多く、ごはんを食べに行ったメンバーはサノさんと年代の近い人ばかり。食事中、会話はいつしかお金の話になり、同年代の気安さからこんな会話が展開されたそうだ。
現場の介護スタッフから「ウチの施設に!」というお誘いが
「サノさんがポロッと『自分の時給が安い』という話をして、その額がほぼ東京都の最低賃金だったんです。
そうしたらウチのスタッフがみんな口々に、『そんな額で働いてるなら、ウチの施設に来なさいよ!』と言い始め、サノさんも興味を持ったようだったんです」
介護の仕事は「給料が安い」というイメージがあるが、実際に求人情報をチェックすると、無資格でもかなりの好条件を提示している施設も少なくない。サノさんがタカギさんの施設に移ると、単純に時給は2割以上上がる計算だった。
そこからはトントン拍子で話が進み、めでたくサノさんは老人ホームの介護スタッフへと転職。
コミュニケーション能力の高さは折り紙付きのサノさんは、今では施設の貴重な戦力として大活躍しているという。
ただ当初はこんなプチ事件もあったそうだ。
「これまでも施設内で働いていたサノさんですが、介護職として正式に転職した際に改めてスタッフや利用者さんに挨拶をしました。
しかし、すでにサノさんを施設のスタッフと思っていた利用者さんの中には、事態が掴めず『どこかでお会いしたような……』と、言い出す方もいました(笑)」
仕事のやりがいは時給がすべてではないが、本人が納得していないならば、より良い条件の職場を探すのは当たり前のこと。
身近な人に相談してみることが転職のきっかけになることもあるのだろう。
ただ、サノさんが“ヘッドハンティング”されたことは清掃会社にはとっくに伝わっており、「引き抜きは困ります」と笑いながら連絡があったそうだ。