介護の仕事は、利用者の生活に寄り添う仕事。人として成長することもでき、他の仕事に代えがたい魅力があります。しかし一方で、肉体的・精神的なストレスは少なくありません。介護特有の仕事のストレス、人間関係のストレス、給与や体力への不安…
介護福祉士・心理カウンセラーの篠雅行さんがアナタのお悩みにアドバイスします。
今週のお悩み事例
だいすけさん(老人保健施設 3年目 介護職 27歳)
医師、ナース、リハビリ職などと連携して仕事をしないとならないのですが、なかなかこちらの気持ちをわかってもらえません。「利用者さん第一」に考えたいのですが、利用者さんの体調や利用者さんの気持ちの話をすると「また感情移入しすぎて、無理なことを言っている…」という目で見られます。利用者さんの身になって話をして、何が悪いのでしょうか!
篠さんからのアドバイス
だいすけさん、日々のお仕事、本当にお疲れ様です。
老人保健施設では、医師やナース、リハビリ職などの他部署との意見交換があり、大変な面があるようですね。
私の場合、医療との関わりは少なかったのですが、ホーム長や本部など運営側と意見が対立することがよくありました。だいすけさんと同じように、憤りを感じたり悩むことも頻繁にありましたね。
だいすけさんのおっしゃる通り、私たち介護士は利用者と直にふれあっている分、心情を把握出来るというのが、何よりの醍醐味だと思います。「感情移入」して利用者の心情を感じ、利用者の幸せを考えるのが仕事です。
ただ、どんなに正しいことを言っていても、「私たちが正論だ。私たちの意見がすばらしい」という風に相手に聞こえてしまうと、通る話も通りません。どこかアラを見つけてつぶされてしまいます。正しいことであるからどう伝えてもいいわけではなく、どんなことでも「情報の伝え方」を工夫する必要があると思うのです。
私から2つアドバイスをします。
まず1つ目。だいすけさんの意見を、今一度、自分で確認してみてください。
前回のお悩み事例にも書きましたが、「利用者の幸せの裏に隠された自己アピール」の要素はありませんか?
人間には誰しも「承認欲求」があります。自分が集団から価値ある存在と認められたい、という欲求です。「自分の存在を誇示したい」「自分をアピールしたい」という思いは、すべての人間が持ちますし、それが自然な状態です。しかしそれが強くなりすぎるのは危険。「自分の我欲のため」の意見になってしまうと「押しつけ的で」周りの人にとっては違和感になります。
自分の意見を少し冷静に見つめなおしてみましょう。その上で、同僚などと話し合い客観的な意見を求めてみてください。
続いて2つ目のアドバイスは、情報の伝え方を変えてみることです。
「自分たちの意見は、利用者の心情や幸せを考えている」というのは、よくわかります。介護士は一番身近で利用者を見ていますから、その意見をしっかり伝えた方がよいですね。
ただ、介護の現場には、医療やリハビリも必要です。「医療面からのケア」というのが医師やナース、リハビリ職の仕事です。また、運営側は「お金を回して施設を継続させる」ことも仕事です。
それぞれが役割を果たして成り立っているのです。大切なことは「相手を否定せず、相手の立場に立つ」ことだと思います。
「医療面からの立場」「運営側の立場」それぞれの意見を想像し、織り交ぜながら「自分たちの意見」を発信してみてください。
「こういうことを利用者とすれば、利用者も喜ぶと思います。いくらまでの予算なら大丈夫なのですか?」
「この場合、医療的な面ではこういうことが考えられると思いますが、ご意見いかがですか?」等です。
ぜひ参考にしてみてください。
プロフィール
篠雅行(しの・まさゆき)
老人ホームや在宅介護事業所、障害者授産施設で介護職を務めるなかで、介護業界で働く人を精神的にサポートしたいと思い、カウンセラーの勉強を始める。介護福祉士、認定心理士、一般社団法人心理技能振興会 心理カウンセラーの資格を持つ。
公開日:2014/10/2
最終更新日:2019/7/17