■書名:治さなくてよい認知症
■著者:上田諭
■発行元:日本評論社
■発行年月:2014年4月28日
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「そのままのあなたでいい」認知症を受容することから始まる認知症ケアのすすめ
介護という仕事に携わるならば、認知症と向き合うことを避けては通れないだろう。認知症によって生じる行動・心理症状(周辺症状)には、不機嫌やイライラ、抑うつ、さらには暴言や妄想などがある。そうした症状に遭遇し、とまどったり、悩んだりした経験があるかもしれない。そんなとき、あなたは認知症という病気をどう感じ、どう対処しただろうか?
本書は、認知症の方との向き合い方について大きなヒントを提示してくれる。
そもそも認知症とはどういう病気なのか?
高齢者の専門医として認知症の方たちと数多く接してきた著者は、認知症は「ひとりぼっちになる病」だと言う。読み進むと、この「ひとりぼっちになる病」という視点こそが、認知症ケアにおける大切な糸口なのだと気づかされる。
<認知症(アルツハイマー病)とは、原因不明で脳の神経細胞が脱落し脳機能が低下する病気ですが、それは病気の一側面でしかありません。もう一つの重要な側面は、自信がなくなり、自尊心が傷つき、周囲との交流が少なくなってしまい、孤独感や疎外感を感じるという精神的な側面です。>
不機嫌や暴言、妄想などは、自尊心が傷つき、これまでの対人関係が壊れることによる精神的な反応で、「むしろ正常な心の反応」だという。介護する側に必要なのは、背景にある孤独感や疎外感といった心情を想像し、理解し、寄り添うことだ。それにはまず、「そのままのあなたでいい」という気持ちを持つことが大事になる。
ところが、認知症の臨床も社会全体も、認知症を「克服すべきもの、矯正すべきもの」として扱い、「治そう」「なくそう」という姿勢に偏り、本人の心情を軽視しているのではないかと著者は警鐘を鳴らす。
<認知症の人々に一番大事なことは、病をもちながらもいかに生き生きと生活できるか、ということである。>
生き生きと生活するためのキーワードは、「張り合い」だと著者は言う。周囲の人たちとの交流や日々の用事、頼られる関係など、社会性や活動性のある環境や満たされた生活……。そうした認知症の方たちが失いかけている「張り合い」づくりの取り組みが大切なのだ。そこから自己肯定感や自尊心も生まれてくる。
本書を手がかりに、自分にできることを問い直してみてはいかがだろうか。
また、「間違いを認めずに取り繕う」「探し物が見つからないと私を犯人にする」など、認知症の方を介護するご家族側からの訴えについても紹介し、それに対して「こう考えてみましょう」という提案をしている。認知症の方の心情についての解説もあるので、認知症ケアの実践場面で参考になるだけでなく、ご家族とのコミュニケーションを図る際にも、本書の内容が役に立つに違いない。
<小田>
著者プロフィール
上田諭(うえだ・さとし)さん
新聞記者として活躍したのち、北海道大学医学部に入学。卒業後は東京医科歯科大学附属病院神経科精神科、東京都多摩老人医療センター(現・多摩北部医療センター)内科および精神科などに勤務。現在は、日本医科大学精神医学教室講師。「高齢者こころ外来」のほか、身体各科の入院病棟での精神症状に対する診療(リエゾン精神医学)を担当。専門は、老年期精神医学、コンサルテーション・リエゾン精神医学、電気けいれん療法。