介護の仕事は、利用者の生活に寄り添う仕事。人として成長することもでき、他の仕事に代えがたい魅力があります。しかし一方で、肉体的・精神的なストレスは少なくありません。介護特有の仕事のストレス、人間関係のストレス、給与や体力への不安…
介護福祉士・心理カウンセラーの篠雅行さんがアナタのお悩みにアドバイスします。
今週のお悩み事例
じゅんこさん(有料老人ホーム 20年目 副施設長 50歳)
私は有料老人ホームで、副施設長として現場を統括しています。私の悩みは、職員たちが利用者さんを第一に考えて仕事をしていないということです。
先日、食事介助の様子を見ていたら、職員同士で会話をしていて、利用者さんがつまらなそうにしています。「利用者さんのことをもっと考えて…」と部下に注意をしたのですが、理解してもらえなかったようで、後日また同じことをしていました。
「私語をするな」とは言いませんが、食事中はご利用者さんと会話をしてほしいです。食事中に利用者さんと話すことも大事な仕事だとわかってもらうためには、どうすればいいのでしょうか?
篠さんからのアドバイス
じゅんこさん、日々のお仕事本当にお疲れ様です。
20年間の介護人生は、色々なことを感じ、学ばれた20年だと思います。さて今回の内容は、部下がじゅんこさんの思う「利用者第一の考え方」を理解してくれないということですね。
20年目のじゅんこさんとまだ経験の浅い部下では、同じ職場の風景を見ていても、考え方、感じ方が全く違うかもしれない…と考えてみてはいかがでしょうか。
たとえば、食事介助の時間をどうとらえるか?
じゅんこさんのようなベテラン職員であれば、「食事の際に、介助を安全に行うことは最低限。その上で楽しい雰囲気づくりが必要だし、食事をしながら会話することで利用者さんの心身の変化に気付くことができる」と考えるかもしれません。
一方、経験の浅い人であれば「自分は利用者さんの不自由な手の代わりとなり、介助をすればよい。利用者さんの食事を邪魔しないよう、食事中に余計なことは話しかけない方がよい」と思っているかもしれません。
「利用者第一で考えると、食事中に利用者さんとコミュニケーションをとった方がよい」ということを部下にわかってもらうために、じゅんこさんがすべきことは何でしょうね。
まず、経験や知識が大きく異なる相手に何かを伝える場合、伝え方が重要になります。
ただ、「利用者を第一に考えていないからダメ」と言っても、相手は理解ができません。「なぜ食事中に会話をすることが、利用者さんにとって良いのか?」をきちんと理解してもらい、「それならどうしたらよいのか」、という方法も具体的に伝える必要があります。
今回、じゅんこさんが一度指導したのに、部下にわかってもらえなかったのは、以下の理由かもしれません。
・言われることが漠然としていて、具体的に何が悪かったのか、どこを直せば良いのかがわからないでいる
・部下は「自分は何にも悪いことしていないのに…」と思っている
・部下は注意されたことでプライドが傷つけられ、反発している
人間は失敗をしながら学ぶ生き物ですが、経験の浅い人には失敗した経験も、成功した経験も少ないもの。そのため、応用をきかせて自分で新しい方法を見つけたり、チャレンジすることができません。
先輩や上司が経験の浅い人を指導するときには、何もわからない人でもイメージができるよう、目的や方法を具体的に伝えるようにしましょう。
また、説明が頭でわかったとしても、プライドが傷つけられた、と反発しているケースも想定されますね。そんな時は、以下を意識してみてはいかがでしょうか?
それは、個人ではなく職場全体へのメッセージとして伝えること。また、答えを教えるのではなく、本人自身が自分で答えを見つけるようにすることです。
たとえば、朝礼などの際に
「黙って食事をしている利用者さんを自分に置き換えて、想像してみてください」
「介護職員として、食事の時間にできることは何でしょうか?」
など、注意ではなく提案として職員全員に投げかけると、一人一人が自分の行動を振り返って考えてくれると思います。
当事者は、自分だけが叱られたとプライドを傷つけられることなく、行動を改めるきっかけを得ます。また施設の理念を職員全員の共通認識として伝えられるというメリットもあります。
とはいえ、個人的な指導が必要な場面もありますね。そんなときは、部下の話をしっかり聞いてあげてください。上司として「聞く:話す」割合は、「9 : 1」くらいが良いと思います。
「なぜそんなことをしたのか?」と取り調べのように聞くのではなく「食事中は話しかけないほうがいいと思ったのはなぜだろう?その考えのすべてが間違いじゃないけれど、介護職員として他にできることがあるとしたら何だろう?」などと、質問しながら部下の考えをきちんと聞いたうえで指導をすると、部下の心の中に上司の考えを理解するスペースが生まれると思います。
私も上司の言いたいことをなかなか理解できない時期がありました。何度も上司とぶつかり心の中で「頭の固い上司だな!」と思っていました。その後、自分自身が上司になり、部下を持ち、「あ〜なるほど上司が言いたかったことはそういうことだったのか」と理解出来るようになりました。もしかしたら、伝え方一つで状況はすぐに変わっていたのかもしれませんね。
部下の指導には時間と手間がかかるかもしれませんが、じゅんこさんは、若い人を育てるとても重要な役割を担っています。応援しています。
プロフィール
篠雅行(しの・まさゆき)
老人ホームや在宅介護事業所、障害者授産施設で介護職を務めるなかで、介護業界で働く人を精神的にサポートしたいと思い、カウンセラーの勉強を始める。介護福祉士、認定心理士、一般社団法人心理技能振興会 心理カウンセラーの資格を持つ。
公開日:2015/1/29
最終更新日:2019/11/6