■書名:利用者に心地よい介護技術 ~「新感覚介助」というアプローチ
■著者:安藤祐介
■発行元:中央法規出版
■発行年月:2015年6月20日
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視覚・聴覚・触覚などの感覚を駆使してかかわる新感覚介助のすすめ
本書のテーマは、利用者にとっての『心地よい介護』だ。『心地よい介護』といっても、具体的にどうすればよいか悩む人もいるかもしれない。著者の安藤祐介さんが提案するのは「目・耳・手を駆使してかかわる」こと。作業療法士である著者ならではの視点を活かした「新感覚介助」というアプローチだ。
新感覚介助とは、視覚や聴覚、触覚などの五感をはじめ、手足の位置や動きを感じる深部感覚、さらにバランスや速さを感じる平衡感覚を意識し、それを介助に活かすという考え方だという。
人と人とのかかわりについて、次のようなことを意識したことはあるだろうか。
<感覚のなかには、かかわりの入り口に適した感覚と適していない感覚があります。結論からいえば、五感のなかで「視覚」が最も適しており、「触覚」が最も適していません。理由は、視覚が自分から離れた物を感じる感覚であるのに対し、触覚は自分に接触した物を感じる感覚だからです。かかわりは、近くより遠くから行うのが理想的です。>
具体的な事例として、利用者の後ろから唐突に肩をたたいて「こんにちは」と声をかけた場合がある。利用者は介助者を認識する前に触られることになり、戸惑うだろう。なんだ、当たり前のことじゃないか、と思うかもしれない。しかし、そうした感覚を意識して介助するか、意識せず介助するかでは、大きな違いが出てくるはずだ。
本書は「基礎編」と「実践編」で構成されている。
最初の「基礎編」では、視覚と聴覚、触覚に分けて章立てし、それぞれの感覚と介助の関係を解説しながら、介助の質を高める知識やヒントを紹介する。著者が特にこだわっているのは、本書を利用する介護スタッフに“体験“しながら読んでもらうこと。だから、見開きページはすべて“体験してみよう“というコーナーから始まり、“即実践”という介助の実践ポイントで締めくくられる。
<この本では、介助の大切さの度合いを効果的に高められるように、各所に体験を取り入れています。本文を読み進める際には、ぜひ体験にお付き合いください。体験の数が、最終的に身につく介助の質につながります。>
たとえば聴覚の章の“声をかけたら動かないのがセオリー”というページでは、「相手の周りをグルグル回りながら話をしてください。相手はどのような気持ちになりますか?」と、まずは体験を促す。そのうえで、「動きながらの声かけは利用者に混乱や不信感をもたらす」理由を、聴覚の仕組みから説いていく。そして、「声かけの際に、ほんの数秒立ち止まる心配り」を介助のヒントとして提案する。
他にも下記のような様々な項目が取り上げられている。
●初対面の利用者に自己紹介するときの距離感
●目が不自由な方を誘導する際の情報提供の仕方
●大勢の中の特定の一人への声かけ
●利用者の動きを手伝う際の皮膚への刺激
各項目は同じように“体験“と解説、“即実践”で構成させている。解説の本文も、読者が自分の体験や過去の経験に照らし合わせてイメージできたり、考えられるよう工夫されているので、わかりやすい。
後半の「実践編」は、「基礎編」とは趣がやや変わり、軽度、中等度、重度の方々の移乗介助で役立つ技術を取り上げる。最後には、現場ですぐに応用できる事例として、認知症や片麻痺の方など4つのケースが紹介される。
本書には、これから介護の仕事に就く初心者だけでなく、介助の質をさらに上げたいと考えている介護職の方にも、多くの気づきがあるはずだ。ぜひ参考にしてみてほしい。
<小田>
著者プロフィール
安藤 祐介(あんどう・ゆうすけ)さん
1984年、静岡県焼津市生まれ。健康科学大学を卒業後、作業療法士免許を取得。2007年、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。介護経験を経たのち、認知症フロアに配属される。2011年から、介護技術や認知症ケアをテーマとしたセミナー講師を務める。現在は「介護」と「学ぶ楽しさ」を融合したスタイルの講義を展開中。現場ならではの柔軟性・創造性に富んだ内容が「介護に新しい可能性を感じる」と好評。