■書名:今日も私は、老人ホームの看護師です おとぼけナースと、かわいい仲間たち
■著者:鈴橋加織
■発行:リーダーズノート
■発行年月:2016年5月14日
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認知症って? 老人ホームって? 現役の看護師が描く大笑いできる愛情たっぷりのコミックエッセイ
本書は、特別養護老人ホームに勤務する現役の看護師が、実体験に基づいて描いたコミックエッセイである。
物語には、さまざまな利用者が登場する。「個性豊かな」を通り越した、「かなり濃いキャラクター」の利用者たちだ。細かいことは気にしないワイルドな83歳の女性利用者、下ネタが大好きな74歳の利用者など。彼らが巻き起こすさまざまな珍事件を、看護師の視点で描いている。
描いているのは、日常のドタバタだけではない。随所に認知症の特色や対応方法、高齢者の特徴、老人ホームの実情など、介護のマメ知識もちりばめられている。
たとえば、「認知症が進むと、痛みを感じにくくなる」ことはご存知だろうか。足を骨折した場合、通常の人であれば絶叫するような痛みを感じるが、認知症の人の中には痛覚が麻痺し、スタスタと歩く人も少なくないという。
傷口を縫った利用者が、せっかく縫った糸をむしり取り大出血してしまったというエピソードを挙げ、「痛みや出血に無頓着になることから、自分で健康が維持できなくなる。周囲の観察力が必要」と著者は語っている。
また、高齢者の骨はもろく、座っているだけでも骨折する場合があることも紹介。利用者とともに、ショッピングモールのフードコートで食事をした時の話では、「高齢者は案外ジャンクフード好き」という意外な点を挙げている。通常はミキサー食でも、好きな料理であれば、そのままの形で食べることができる利用者も多いそうだ。実体験に基づいたリアルな情報に、高齢者の違った一面を知る人も多いのではないだろうか。
そのほか、老人ホームのビッグイベント「街の回転寿司屋に行く」や、「夜間の徘徊」といったエピソードも収録。全体を通して、著者の認知症の人に対するまなざしが、あたたかい。最後の章には、著者に「死にたい」と語った利用者が登場するが、それに対する著者の対応が愛情いっぱいで、ホロリとさせられる。
<私の仕事は病院とかなり違うので、この職に就いてから同業やいろんな人に老人ホームや介護について質問されるようになりました。私の周りの方は老人ホームの入り方や認知症についてあまりご存知ではありません。そういう皆さんのお役に立てるのではないかと思い、認知症のエッセイ漫画を描きました。大好きなこの仕事で得た知識や経験をみなさんのお役に立てたいです>
本書では、24時間365日の特別養護老人ホームの様子が描かれている。デイサービスで働いている人や、訪問ヘルパーとして働いてきた人にとって、「特別養護老人ホーム」は未知の世界だろう。「老人ホームの介護について知りたい」「老人ホームへの転職を検討しているのだけど……」という人は、ぜひ一度手にとってみてほしい。
著者プロフィール
鈴橋加織(すずはし・かおり)さん
特別養護老人ホームに勤務する、現役の看護師。多くの利用者から「おねーちゃん」と呼ばれ、親しまれている。老人ホームのエッセイ漫画を描くことを思い立ち、3年をかけて本書を完成させた。現在、2巻の発売に向けて執筆中。