■書名:介護施設の花嫁 ~「愛」と「笑い」の場 ソレアード物語~
■著者:八上 俊樹
■出版社:武蔵野デジタル出版
■発行年月:2016年7月
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女性スタッフが施設で結婚式!? 他とはちょっと違う介護施設のお話
本書で語られるのは、従来のイメージを打ち破る、個性的な介護施設のことだ。その施設の名前は「ソレアード」。埼玉県内に6つの施設がある。
著者の八上さんは、このソレアードに長年顧問の立場で関わってきた公認会計士だ。
八上さんの言葉を借りれば、ソレアードは「他とはちょっと違う」のだそう。「楽しく、あったかいのだ。だから、人が集まってくる」という。
そして、それを象徴的に表すエピソードが語られていく。
まず紹介するのは、施設で結婚式を挙げた女性スタッフの話。
施設で暮らす一人の利用者の発案をきっかけに、施設を挙げて準備をし、結婚式から披露宴まで実現させたのだ。
女性スタッフと施設長、そして利用者たちの関係は、母娘や親類のつながりを思わせる。
次に紹介されるのは、ある利用者と一緒に施設にきた犬のエピソードだ。その方が亡くなった後も皆で世話をしているのだという。
施設で個人の犬を飼うことは、ソレアードにとっても簡単なことではなかった。それでも、利用者のために決断して動くのがソレアードなのだ。
「他とはちょっと違う」ソレアード。それを実現しているカギは、次のような介護の理念にある。
<あくまでソレアードの介護は、一人ひとりの利用者が、より自分らしく、充実した日々を生き生きと過ごすためのものだ。そのために、スタッフが利用者の想いに寄り添いながらおこなうものである。その理念を、スタッフ全員が共有している。>
この理念のもと、ソレアードでは、介護スタッフが楽になることだけを目的にした道具には、極力頼らないのだそうだ。
介護の現場では当たり前になっているようなものでも、利用者のためでなければ手抜きと考える。
その考え方はオムツにさえ及ぶ。言葉にするのは簡単だが、実際には途方もない苦労をともなうはずだ。
だから、スタッフのがんばりようは、八上さんが見ていて圧倒されるほどすごいものなのだとか。
多くの人が感じるように、著者も公認会計士の立場から、ソレアードのやり方を「非効率」と認めている。
しかし同時に、「ソレアードの介護はこれでいいのだ。もともと目指したものが、効率的な介護ではないのだから」と続ける。
むしろ、民間資本の運営でありながら、効率を二の次にして利用者のための介護を続けてきたことに価値を見出している。
本書は決して、介護の理想を声高に叫ぶものではない。
ただ間違いないのは、読み進めるごとに、人と人のつながりの豊かさや楽しさが伝わってくることだ。自然に、介護や介護施設のあり方について思いが向くことだろう。介護施設をポジティブにとらえるきっかけにもなりそうだ。
著者プロフィール
八上 俊樹(やがみ・としき)さん
公認会計士。ティニエント合同会社 代表社員。株式上場支援をはじめ、主に中堅企業・ベンチャー企業の成長発展のサポートを数多く手がける。