■書名:認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方
■監修:内門 大丈
■出版社:大和出版
■発行年月:2018年4月
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認知症の人の“妄想”“幻覚”への正しい対応、きちんと説明できますか?
認知症の人が引き起こす一見不可解な行動には、実は理由があるという。
もしその理由がわかるとしたら、お世話をする人にとって、どれほど助けになることか。ケアへの迷いが減り、より良い対応がとれるようになるのではないだろうか。
本書は、主に家族向けに書かれたものだが、仕事として認知症の人と向き合う介護職にとっても、重要な内容が詰まっている。介護の現場で活かせるような多くの気づきがあるはずだ。
さっそく具体的な例で見てみよう。
認知症の人の困った行動のひとつに、「妄想」がある。
特に親しい人や信頼している人に、「ものをとられた」などの疑いの目を向けることも多いので、周囲の戸惑いも大きくなりがちだ。
認知症での「妄想」の原因となっているのは脳の記憶障害だが、置き場所を忘れたと認めたくない気持ちや不安感などが合わさって、被害妄想が生まれやすくなるのだという。
「妄想は、不安やつらさから身を守るために心が生み出す手段のひとつ」と理解したうえで、こうした場合には、次のように対応するのが好ましいと筆者は言っている。
<身近な人が疑われ、傷つくことが多い。病気によるものなので真に受けず、冷静な対応を。否定すると反発し、妄想が膨らみやすい。「困りましたね」と、まずは気持ちに寄り添って。探しものを疑われている人が見つけると「盗んだ」妄想が確信になるため、見つけやすいところに置き、一緒に探すふりをし、本人に見つけさせるとよい。>
認知症の人の行動の理由を理解するためには、本人の心情を読み解くことが大切。それがわかれば適切なケアにつながり、症状が落ち着いていくことも多い。
さらに、レビー小体型認知症で起こりやすい「幻覚」の例では、次のような対応がすすめられている。
<幻覚が見えても、怖がったり不安になったりしなければ、問題はない。はっきり見えているものを否定されると不安感が増すため、まずなにが見えているのか話を聞いて同意することが大事。部屋のものかげなどが原因なら、部屋を明るくしたり、片づけたり。恐怖が募って、警察に通報したり、錯乱したりするときは、医師に相談を。>
存在しないものが見える「幻覚(幻視)」は、脳の視覚をつかさどる部分の障害が原因で、レビー小体型認知症の8割の人にあらわれるといわれている。ケアをする介護職や家族が、こうした適切な対応のしかたを知っておきたいものだ。
本書の後半部分では、認知症の人と共に生きるために欠かせない考え方についての記述も多い。基本的な態度としては、「ひとりの人間として認め、真摯に話を聞き、語りかける」ことだという。
結局、認知症であろうとなかろうと、人としてどう接するかが大切なのだと気づかされる。
ひとつの話題が見開き2ページで完結するようにまとめてあるので、時間のあるときにどこからでも拾い読みできる。図解もふんだんでわかりやすく、ソフトでやさしい印象のページ作りがされているので、気軽に手に取ってみるとよいだろう。
介護職にとって大切な、認知症の人に寄り添うための気づきが得られ、さらには家族を支える手助けにもなるはずだ。
監修者プロフィール
内門 大丈(うちかど・ひろたけ)さん
医療法人社団みのり会湘南いなほクリニック院長。横浜市立大学医学部臨床准教授。医学博士。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医・指導医。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。現在、いなほクリニックグループ共同代表として認知症在宅医療を推進。NPネットワーク研究会代表世話人、レビー小体型認知症研究会事務局長として認知症診療の充実、認知症情報のアウトリーチ活動に取り組む。