■書名:ビジネスとしての介護施設 - こうすれば職員が定着する
■著者:志賀 弘幸
■出版社:時事通信社
■発行年月:2017年1月
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利用者満足の前に介護職の満足!ビジネスの視点で見る介護施設の改善法
著者は、研修やコンサルティング業務を通して、300か所以上の福祉や介護の現場を見てきた介護特化型のコンサルタント。社会保険労務士や社会福祉士の資格を持ち、多角的な視点から介護施設が抱える問題点やその改善策を示してくれている。
本書の特色は、介護施設のあり方について、ビジネスの考え方を応用して語られていることだろう。要所要所でドラッカーのマネジメント論が引用され、本書の内容の骨組みとなっている。
福祉や介護の業界では、今も「ビジネス」やビジネス用語の「マネジメント」といった言葉になじみのない人が多い。しかし、介護現場を本気で改善していきたいなら、ビジネスの手法やマネジメントが欠かせないのだと著者は語る。
著者によると、マネジメントの役割とは下記のようなことだという。
「組織は、自己実現を図ることができる場であり、そこで働いている人を生かすこと」
つまり、介護現場に求められるマネジメントは「人」が中心なのだ。したがって、マネジメントがうまく機能すれば、介護現場で成果が上がるだけでなく、スタッフは働く幸せを感じることができる。
明るく働くスタッフの多い施設では、利用者の満足度も高くなる。
介護施設が抱える問題点やその改善策について語られていく中でも、「利用者満足の前に、職員満足を高めよ」と力を込めているのが特に印象的だ。
<職員満足度を高めることなしに、利用者満足につなげることは難しいのです。にもかかわらずそのことに気付かない経営者は、「サービスの質を上げよう」という掛け声ばかりを先行させてしまい、スタッフ周辺の働く環境の整備が遅れていることが少なくありません。>
安心して働ける環境があり、人材育成も含めた制度がしっかり整備された職場では、スタッフは仕事にやりがいを感じることができる。
スタッフの満足度は笑顔となって表れ、利用者にも伝わり、施設全体の笑顔が多くなる。これは、著者が多くの介護施設を見てきた実感なのだという。
さらにうれしいことには、このような職場では、スタッフや職員の定着率向上が期待できる。これは人材確保のための一つのよい方法だろう。
よくあるマネジメントの悩みも、ケーススタディとして掲載されている。
管理者やリーダーが、辞められるのが怖くてスタッフを叱れないでいるケースや、部下に仕事を任せるのが苦手なケースなどへの対応策が興味深い。
いずれも、著者による「人材育成」の観点からのアドバイスが大いに参考になるはずだ。
著者はまた、介護業界こそ「業務の改善」や「効率化」を進めるべきだと訴えている。
「効率化」は特にビジネスライクな印象があり、もともと変化を嫌う介護現場では反発されがちだが、目的はあくまでスタッフにとって働きやすい職場にすること。施設として成功していくために必要な変化と受け止めるべきだろう。
生き残り競争が始まっている介護業界の今後を見据えて、経営者や管理者、さらにスタッフの立場でも、それぞれが参考にして考えたい内容の詰まった一冊だ。
著者プロフィール
志賀 弘幸(しが・ひろゆき)さん
1969年生まれ。株式会社シンクアクト代表取締役、志賀社会保険労務士事務所代表、一般社団法人福祉経営綜合研究所理事。社会保険労務士、社会福祉士の資格を生かし、福祉介護業界に特化した人材育成、人事考課制度(キャリアパス制度)、労務管理アドバイスなどを全国の顧問先で実践。全国社会福祉協議会キャリアパス生涯研修の指導講師を務め、各地の社会福祉協議会、社会福祉法人、民間介護事業所など介護特化型のコンサルタントとして活躍する。