■書名:老人の取扱説明書
■著者:平松 類
■出版社:SBクリエイティブ
■発行年月:2017年9月
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高齢者あるあるは、老化による体の変化が原因!?介護職も知っておきたい解決策
「同じ話を何度もする」、「都合の悪い話は聞こえないふり」、「急に怒鳴る」。これらは高齢者が起こす困った行動の代表例だろう。
本書では、こうした行動への解決策として、周囲がすべきこと、高齢者本人がすべきことを、医学的背景にそって具体的に教えてくれる。
まず前提となるのは、高齢者の困った行動の多くは「老化による体の変化」が原因である、ということ。著者の平松類医師は、眼科医として多くの高齢者と接する中で、この事実に気づいたという。認知症やがんこな性格のせいばかりではないのだ。
<高齢者の困った行動の原因となる真実は、いったい何なのでしょうか? それは、ボケや性格によるものというよりも、老化による体の変化だったのです。真実を知れば、どう解決するべきかもどう予防するべきかも、すでに医学的に説明がつくことで明らかになります。>
体の老化が原因であることがわかれば、高齢者の困った行動に接しても、周囲はイライラしにくくなり、正しい手助けができるようになる。医学的な理由がはっきりすれば、周囲も本人もすべきことが見えてくるというわけだ。
たとえば、「都合の悪い話は聞こえないふりをする」ケースについては、老化により難聴がすすみ、高い音声、特に女性の声が聞こえにくくなることが原因だという。
都合が悪いから聞こえないふりをしているのではなく、高齢者には実際に聞こえにくい声があるということだ。嫁の話は聞こえていないのに息子の話なら聞こえるのは、嫁の声は高く、息子の声は低いからなのだ。
このように、聞こえない原因がわかれば、「周りの人がすべき正しい行動」も具体的になる。コツは三つ、「低い声で、ゆっくり、正面から」。その他、次のようなことにも気を付けるとよいそうだ。
・口の動きが伝わるように、マスクを外す
・聞き取りやすそうな耳、補聴器が入っている耳に向かって話す
・高齢者と同じスピードで話す
・単語ごとに区切って話す
・数字を言う際は、なるべく連続して言わない
高齢者と接するためのアドバイスがとても細やかで、具体的なのが本書の特徴。介護職や高齢者の家族だけでなく、多くの人に役立つ内容だ。
さらに「自分がこうならないために」や「自分がこうなったら」についても、同じように丁寧に書かれているので、自分事としてとらえることもできる。
老人のよくある困った行動として、本書では全部で16の例を取り上げている。「赤信号でも平気で渡る」「料理にしょうゆやソースをドボドボとかける」などの、“高齢者あるある”ばかりだ。
その16例すべてにおいて、主な原因が老化による体の変化であったとは、驚きでもある。
タイトルの「取扱説明書」という言葉に、たじろぐ人もあるかもしれないが、中身はいたって常識的で実用的だ。
理想論に終わらず、高齢者の困った行動への解決策としてすぐに役立つ情報が書かれているので、日々高齢者に接する介護職は、一度手に取ってみるとよいだろう。
著者プロフィール
平松 類(ひらまつ・るい)さん
医師・医学博士。昭和大学兼任講師、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長、三友堂病院非常勤医師。眼科医として勤務する中で、のべ10万人以上の老人と接してきたことから、老人の症状や悩みに精通する。専門知識がなくてもわかる歯切れのよい解説が好評で、テレビ・ラジオ・新聞雑誌などへの出演・執筆も多い。