■書名:100歳時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由
■編著者:久田 恵、花げし舎取材チーム
■出版社:現代書館
■発行年月:2018年11月
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100人の介護職のリアルな声で気付く、「介護」の仕事のすばらしさ
久田恵さんといえば、ノンフィクション作家としてばかりでなく、読売新聞の「人生案内」で長く人々の悩みに寄り添ってきた回答者として、ご存じの方もいるのではないだろうか。
本書は、その久田さんにより結成された取材チームが、介護を仕事にする人々にインタビューをした記録が元となっている。北海道から九州まで、150人余りの取材を経て、「介護を仕事にした100人の理由」としてまとめたのが本書だ。
介護を仕事にした「理由」に的を絞っているのは、「仕事の選択は誰にとっても人生そのもの」と久田さんが考えているから。
仕事の選択の背景には、必ずその人ならではの物語があり、その物語を語る彼らの視点はとても貴重なのだという。
<超高齢社会のこの国を支える新たな「介護哲学」は、この現場に生きる草の根の介護職の人たちからこそ生まれてくるのだと。
ぜひ、この未曽有の介護時代を共に乗り越えていくために、彼らの実践のなかからこぼれ出た貴重な言葉に耳を傾けて一緒に考えてください。>
本書で紹介されている100人の介護職の経歴は、きわめて多彩だ。元芸人、元銀行員、元ホステス、元専業主婦など、それぞれがその人なりの理由で介護の仕事を始めている。
生活のために、または家族の介護をきっかけに、知人の紹介でたまたまという人もあれば、起業のチャンスに賭けた人も。
理由は百人百様だが、いずれも今では介護の仕事にのめり込み、それぞれの立場での介護に対する貴重な思いを伝えてくれている。
たとえば、ニューハーフとしてショーパブで働きながら介護の資格を取り、デイサービスと訪問介護の会社を起業した人は、「介護の世界は自由」と話す。LGBTの人たちも自分らしくいられる場なのだという。
そして、介護の現場ではそれまでの人生のつらい経験でさえも武器になり、LGBTの人は優しい人が多いので、介護の仕事に向いている、と締めくくっている。
専業主婦から訪問入浴ヘルパーのパートやデイサービスのパートを経て、現在は介護施設のデイサービス副センター長を務める女性は、「じわじわと介護の世界にはまっていった」と振り返る。
最初から管理職を目指したわけではない、という元専業主婦のこの女性。介護の仕事を通して人に頼ってもらうことにうれしさを感じるようになり、いつの間にか、陰で支える人になりたいと考えるようになったそうだ。
彼女は、介護の仕事のすばらしさを次のように話している。
<介護の現場は、利用者の方が喜んでいると、その家族も喜んで、私が喜んでいると、仕事仲間、私の家族も喜んで……。喜びの輪が広がっていくのだなあと思うようになりました。>
介護の世界では厳しさばかりがクローズアップされがちだが、100人のリアルな声からは、希望が見えてくる。
これから介護の世界に入って行こうとする人にとっても、すでに介護の仕事をしている人にとっても、力強く励まされる一冊となることだろう。
編著者プロフィール
久田 恵(ひさだ・めぐみ)さん
1947年生まれ。ノンフィクション作家。『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で第21回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。主な著書に『母のいる場所―シルバーヴィラ向山物語』(文藝春秋)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。両親の介護歴20年。現在、花げし舎を主宰し、編集&取材チームを率いている。
花げし舎(はなげししゃ)
久田恵さんが立ち上げた編集企画グループ。出版部門のほかには、現在は栃木県那須町を拠点に人形劇講演にも力を注いでいる。本書には、取材チームとして石川未紀、進藤美恵子、原口美香、藤山フジコ、毛利マスミが携わった。