■書名:今日も私は、老人ホームの看護師です 2
■著者:鈴橋 加織
■出版社:リーダーズノート出版
■発行年月:2016年11月
>>『今日も私は、老人ホームの看護師です 2』の購入はこちら
老人ホームでの「あるある」を愛情たっぷりに描くコミックエッセイ第2巻!
「看護師さん。私、昨日双子産んだのよ~」「わ~、そうなんですか。大家族ですね~」、「えもんかけにとっくりかけてくれた?」「ごめんなさい、なに言ってるかわからないです…」
このような会話が普通に交わされている老人ホームの日常を、そこで働く看護師の目を通して綴ったコミックエッセイの第2巻である。
ちなみに、「えもんかけ」とは「ハンガー」、「とっくり」は「タートルネック」のこと。
著者の鈴橋さんが勤務するのは特別養護老人ホーム。看護師の数は少なく、認知症の方も多く入居しているため、仕事は大変そうだ。
健康管理の基本である血圧測定や採血も、簡単にはさせてもらえない。それでも何とかこなす様子が本書で紹介されている。
たとえば、歩き回る利用者の隙をついて腕に駆血帯を取り付け、上手に気を引きテレビの前に誘導し、見えないように後ろ手にしてすばやく採血するという離れ業を行っているそうだ。
また、入浴を嫌がる利用者に対しては、「体重を測りますよ」と言ってお風呂場に連れていき、ちゃんと測るようにお医者さんに言われているからと、服を脱がせてそのまま浴室に誘導。すると割とすんなり入ってくれるらしい。
このとき入浴することがわからないように、お風呂場の入口にかかっているのれんは外しておいたほうがよいとのワンポイントアドバイスもついている。
本書に描かれているエピソードは、老人ホームについて知らない人にとってはびっくりすることだらけである。しかし、看護・介護に携わる人にとっては「あるある」のことが多いだろう。
認知症の利用者は、鏡がわからず、そこに映った自分が認識できないとか、テレビが何であるかを忘れてしまい、映像を怖がり、テレビを壊してしまうこともあるという。
わからないということは、利用者が不安の中にいること。落ち着ける場所に移動させるのも看護師の腕の見せどころである。認知症の方々に向き合う姿勢にはプロ意識が感じられる。
和裁の職人だった認知症利用者に、制服の裾直しをしてもらったエピソードには、次のような言葉が添えられている。
<認知症になったって誰かの役にたちたいと思っています。たとえ部分的にしかできなくてもやりとげた達成感は自信につながります。認知症のリハビリは小さなことでも自分でやりとげて、一緒に喜び合うことがとても大切なんです。>
鈴橋さんの利用者へのまなざしは優しい。食事に出されるパンを隠す男性は、シベリア抑留の経験者。戦友たちに食べさせてあげたいと、自室のタンスにパンやおやつをため込んでいた。
それを不衛生だからと取り上げるのではなく、「戦友に送りましょう」と一緒に箱に詰めてあげる。この戦争体験者のつらい思い出に寄り添う姿には、胸が熱くなる。
人の心を温かくすることは共感につながる。老人ホームでの大変な毎日が、このように明るく微笑ましく描かれることで、読んだ人の気持ちも和らぐことだろう。
介護職にとっては、「そうそう!」「あるある!」と共感でき、働く気持ちが高まる一冊だ。
●第1巻はこちら
→『今日も私は、老人ホームの看護師です』
著者プロフィール
鈴橋 加織さん(すずはし・かおり)さん
特別養護老人ホームに勤務する看護師。通称スーさんだが、多くの利用者からは「おねーちゃん」と呼ばれている。また、割烹着が似合いすぎるため、餅つき大会の日には「おかん」と呼ばれるという。個性あふれる利用者との日々を綴った本シリーズは3巻の発売が決定。