■書名:在宅医療のリアル
■著者:上田 聡
■発行:幻冬舎
■発行年月:2015年2月25日
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終末期の医療を在宅で行うことは可能か? 家族や介護職が知っておきたいこと
65歳以上の高齢者数は、2025年には3,657万人となり、2042年にはピークを迎えると予想されている。歳をとるにつれ、病気になったり介護が必要になることも増えてくるだろう。入院や施設に入所する人も増加すると考えられるが、厚生労働省が2013年に行った調査によると、「自宅でできるだけ療養したい、自宅で最期まで過ごしたい」という人が、65%を超えているという。
そこで国では、できる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できるように、と「在宅医療・介護推進プロジェクトチーム」を立ち上げた。高齢者の最期は、これまでの「病院」から「在宅」にシフトしようとしている。
しかし、本人が「自宅で最期を迎えたい」と思っていても、家族にとっては心配の方が大きいのではないだろうか。いつ何があるかわからない終末期の家族を自宅で看病するのである。もしも、真夜中に症状が急変したら? 食べ物を受け付けず痩せていく一方だったら? 常に医師の診察が受けられる病院の方が安心だと考える人もいるかもしれない。
「在宅での看取りって、本当にできる?どうしたらいい?」 もし、介護職が家族から相談を受けたら、どうアドバイスするだろうか。
そんな時は、この本を勧めてみてもいいかもしれない。本書を読み進んでいくにつれ、そのような心配がだんだんと薄くなっていく。著者の上田聡さんは、10数年以上にわたり、地域の高齢者やその家族をサポートしてきた在宅医療専門医だ。本書では、上田さんが実際に体験した、在宅医療のさまざまな出来事を紹介している。
上田さんの在宅医療の方針は、「無駄な医療は行わない」「過剰な検査はしない」「薬は最小限にとどめる」「自然治癒力を大事にする」と一貫している。終末期は自然と食欲がなくなるので、体力を付けるための点滴はかえって体に負担になるという。
また、高齢者にとっては環境の変化は大変なストレスになるため、入院したことで体調を崩すこともある。大好きな家族と引き離される「喪失感」の方が、よほど後々にこたえるのだという。
本書では、家族や地域の人々に見守られながら、安らかに最期を迎えたエピソードも多く収録している。大好きな音楽を聴きながら旅立った人もいれば、亡くなる前日までビールを飲んでいた肺がん末期の患者もいたそうだ。ただし、このように満足のいく最期を迎えるには、医療機関や介護施設、地域との連携が必須だろう。
また、在宅医療の診察を行うだけではなく、上田さんは自ら、老人ホームも作ったという。管理しすぎず、入居者の自由を重んじるその施設では、全介助が必要だった人が車いすを動かせるようになったり、食事ができるようになったケースもあるそう。家族の希望通りに行う医療介護や、管理が行き届いたケアは入居者にとって良いものなのか、考えさせられる内容にもなっている。
<これまでの経験を踏まえていえるのは、高齢者に自宅で最期まで過ごしてもらうことは難しいことではなく、家族が終末期についての正しい知識を備えて高齢者の死を受けいれ、しかるべきケアを行えば、高齢者は自分らしい人生を最期まで送り大往生できるということだ>
在宅医療で終末期の患者に家族や介護者ができることは何か、終末期患者の心の痛みにどう対処していったらよいのか。本書には、自宅で幸せな最期を迎えてもらうために、家族や介護に関わる人が知っておきたいポイントが豊富に記されている。
著者プロフィール
上田 聡(うえだ・そう)さん
国立山形大学医学部卒。自治医科大学循環器内科、榊原記念病院を経て、千葉県循環器病センター医長等も務め、主に心臓病の高度専門医療に専念。2006年に独立し、現在の上田医院を開業した。独立開業後は地域のかかりつけ医、在宅医療の専門医として、10数年にわたって終末期を迎えた600人以上の看取りに立ち会っている。