■書名:あなたの老いは舌から始まる―今日からできる口の中のケアのすべて
■著者:菊谷 武
■出版社:NHK出版
■発行年月:2018年9月
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食べることのカギは「舌」!口腔ケアの専門家によるお口の健康最新情報
「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という
8020(はちまるにいまる)運動が注目されるようになって久しい。
その成果もめざましく、自分の歯をたくさん残せている高齢者が増えている。
しかし今、
歯があっても食べられない人が目立ってきているのだという。
考えてみれば、「食べる」という動作は、歯だけでできるものではない。歯の他にも、舌、頬、下あごなどの部位が連動して働いてくれてはじめて、食べることが可能になるのだ。
だから、そうした部位に問題があれば、歯があっても食べられないということが起きる。
本書では、歯以外の部位の中で特に重要なものとして「舌」を取り上げている。
高齢者の口腔ケアに必要な知識として、是非チェックしておくべきだろう。
舌の役割やその重要性を理解するには、「食べる」という動作を分解して見直してみるといいだろう。何気なく行っていることながら、実はとても複雑で緻密な動きであることがわかる。
「食べる」ときの舌の役割は以下のとおりだ。
・食べ物を口に入れるとき、迎えにいって口の中に取り込む
・味や温度、物性を感知する
・食べ物を巧みに取り回し、咀嚼(そしゃく)をサポートする
・噛み終わった食べ物をまとめる
・のどに送り込んで飲み込む
「食べる」という動作の中心が舌であることに、あらためて気づかされるのではないだろうか。
著者は、食べ物を噛むためには歯は当然あった方がよいけれど、「舌は歯よりも重要な役割を果たしている」と言い切っている。
また、舌の機能は「食べる」ためだけに限らない。
「話す」、つまり
声を出すためにも欠かせないことを忘れてはならない。
発声するには、唇と合わせて舌が巧みに動くことが必要で、この動きが悪くなると発音が不明瞭になり言葉を伝えにくくなる。
舌は大切なコミュニケーションの道具でもあるということだ。
本書では、第3章で
舌の機能や重要性について解説した後、第4章では次のような
舌を鍛えるためのトレーニング法を紹介している。
①ガムを噛む
②おしゃべりをする
③カラオケで歌う
④噛みごたえのある食材を取り入れる
⑤チョップドサラダ(多品目サラダ)に挑戦
加齢に伴って筋力が衰えるように、舌の筋力も75歳を過ぎるころから落ちていくのだそうだ。
舌の力を維持するためには、日頃から口をよく動かすことが大切で、上記のトレーニングはそのためのもの。手軽なものばかりなので、日常生活で取り組んでみるとよいだろう。
本書では、舌にスポットライトが当てられているが、歯や口の中全体のことについても詳しく説明されている。
歯のケアだけでなく、入れ歯のケアについての紹介や、口周りの機能が衰えることで誤嚥性肺炎が起きやすくなることに触れるなど、高齢者の口腔ケアにつながるさまざまな情報を網羅している。
介護の仕事につく人なら、高齢者の身体に関わる最新事情として目を通しておくことをおすすめしたい。
著者プロフィール(引用)
菊谷 武(きくたに・たけし)さん
日本歯科大学教授、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長。1963年東京都生まれ。1988年日本歯科大学歯学部卒業。1989年同歯学部附属病院高齢者歯科診療科入局。2001年より口腔介護リハビリテーションセンター・センター長を務める。専門は摂食嚥下リハビリテーション、老年歯科学。