2015年4月末、厚生労働省は2015~17年度(第6期)の介護保険第1号被保険者の月額保険料が、全市町村平均で5514円と、初めて5000円を超えたと発表しました(*1)。
4972円だった2012~14年(第5期)の平均額と比べると、10.9%の増加。介護保険制度が始まった2000年の介護保険料の平均額は2911円ですから、2倍近くになってしまいました。
ちなみに、第1号被保険者とは65歳以上の介護保険被保険者。年金受給者は保険料が年金から天引きされています。
年金は物価の値上がりほどには増えていかず、介護保険や健康保険の保険料など天引きされる額は増える一方。高齢者の嘆く声が聞こえてきそうです。
制度開始から利用者数が4倍になった居宅サービス
下の表は、介護保険制度がスタートした2000年4月末時点での介護保険の状況と、2014年12月時点での状況を比較したもの。この15年で、どれだけ介護保険の利用が広まったかがよくわかります。
中でも特に増えたのが居宅サービスの受給者。2014年の要介護認定者数は2000年の2.8倍にもかかわらず、居宅サービスの受給者数は4倍近くにもなっています。
一方、保険給付額を見てみると、3.6兆円だった2000年度年間合計額に対し、2013年度は9.4兆円。増加倍率は2.6倍で、居宅サービスの3.9倍に比べるとずっと少ないと言えます。
では、何が給付額を引き上げているのでしょうか?
*出典:介護保険事業状況報告を一部改編
*地域密着型サービスは2006年度に創設されたため、2000年4月のデータはない。
「施設サービス」にかかるお金は、「居宅サービス」の約2.7倍!
その答えは、下の表を見ると、よくわかります。
2014年12月時点での給付額から、各サービスの受給者1人あたりの平均給付額を計算すると、居宅サービスは約10万円。地域密着型サービスは約21万円、施設サービスは約27万円になります。施設サービスの1人あたりの給付額は、居宅サービスの2.7倍。
つまり、施設を利用する人が1人増えると、居宅サービスの利用者が2.7人増えたのと同じだけ、給付額が増えていくということです。
*出典:介護保険事業状況報告を一部改編
国は2006年の制度改正で、地域支援事業で介護予防に取り組むことを市町村に求めました。
また、小規模多機能型居宅介護などの地域密着型サービスも新たにスタートさせました。地域で暮らす高齢者をできるだけ要介護状態にならないようにすること、そして、住み慣れた自宅で暮らし続けられる体制をつくることを、国の大きな方針としたのです。
なぜなら、施設介護に頼っていては、保険給付は増える一方。保険給付額の増加は、給付財源の半分を支えている保険料の引き上げにつながります。このままでは、10年後には保険料の平均が8000円を超えるともいわれているのです。
65歳以上であれば、誰もが平均5000円にも上る保険料を納めなくてはなりません。しかし、介護保険を利用しているのは、65歳以上のわずか15%程度。残りの約85%の人は、使いもしない介護保険を維持するために保険料を納めているわけです。今後さらに保険料が高くなっていったとき、利用している人との間での不公平感が高まっていきそうです。
施設に頼らず、地域で暮らし続けるための仕組みである「地域包括ケアシステム」の構築が求められているのは、こうした背景があるからです。地域包括ケアシステムについては、また別途説明したいと思います。
<文:宮下公美子>
*1 「増える介護保険料 自治体に格差」(NHK NEWS WEB特集 2015年4月30日)