小売業大手のイオンが、2015年9月から、本格的に介護事業に参入することを発表しました(*1)。2020年度までに50のデイサービス施設開設を目指すとのこと。
開店から30年前後の店舗で、高齢化した顧客のニーズに対応する形でスタートするそうです。通い慣れたスーパーにデイサービスができれば、高齢者にとっては行ってみようという気持ちになりやすいかもしれません。
異業種からの参入にはいくつかのタイプがある
こうした異業種からの介護業界への参入は、介護保険開始時に一度大きな盛り上がりがありました。隣接業界である医療はもちろん、不動産業界、小売業界、保険業界のほか、さまざまなメーカーも参入してきました。
その後、2006年の新予防給付スタートで介護予防に注目が集まったときに、スポーツやリハビリ関連企業が参入。さらに、サービス付き高齢者向け住宅が一気に増えた時期には不動産業界などからの参入が目立ったように思います。
そして今、参入してきている企業には、大きく二つの傾向があります。一つは、2017年度末までに各市町村がスタートさせるとされている、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の受託を目指した動き。運動系リハビリや認知症予防の教室運営の受託を目指す、スポーツクラブなどが力を入れています。
もう一つは、高齢者それぞれの趣味や興味に合わせたプログラムを提供する動き。これは異業種からの参入だけでなく、介護事業者の多角化の場合もあります。これにはさらに2つのタイプがあります。一つは、デイサービスなどの利用に消極的な、男性高齢者の興味を引くプログラムを提供する企業。こちらは総合事業への参入も視野に入れて動いています。もう一つは、介護保険事業以外の収益源を確保するための事業を行っている企業です。
本格カジノの「非日常」のムードで男性利用者を呼び込む
男性高齢者の興味を引くプログラムといえば、これまでは囲碁や将棋、麻雀などが主流でした。もちろん、今もそうしたプログラムは行われています。
それに加えて今徐々に増えつつあるのが、ルーレットやカードゲームを楽しむカジノ、スロットマシーンなどのアミューズメントプログラム。本物のカジノ機材、スロットマシーンなどをデイサービスや総合事業の場に持ち込みます。事業者によっては、ディーラーを本場さながらの衣装を身につけた介護士が務めることで、「非日常」の空間を演出しています。これにより、男性高齢者の参加率がとても高くなっていると言います。
おしゃべりを楽しむことが目的でデイサービスなどに通うことが多い女性に比べ、男性は目的もなくデイサービスに通うことを嫌いがちです。その点、カジノは、ワクワクし、ちょっとしたスリルも味わえるプログラム。男性も、積極的に通いたいという気持ちにすることができるというわけです。カードゲームで手札の数字を計算したり、チップを置くためにイスから立ち上がったり、カジノは実は認知機能や運動器機能の向上にも十分効果があるのです。
一方、介護保険事業以外の収益源としては、ヨガインストラクターによるヨガ教室や、理学療法士が常駐するリハビリジム、子ども向け体操教室などを運営する例があります。そうした介護保険外の事業は介護保険事業においても、その事業者の特色となり、利用者に好評を得ています。
介護保険事業以外の収益の柱を見つけておく
今後は、こだわりが強く要望・要求が多いといわれる団塊の世代が、徐々に要介護状態になっていきます。そうなれば、デイサービスのプログラムなどは、現状のような画一的なものでは満足してもらえなくなることが十分考えられます。カジノに限らず、さまざまなタイプの利用者の趣味や興味に応えられるプログラムの開発が、これからますます必要になっていくことでしょう。
また、介護保険事業を考えると、今後は、ますます財源不足から縮小方向になっていきそう。今、安定して運営できていても、介護保険事業だけに頼っていては、制度改正、報酬改定によって収益に大きな影響を受けてしまいます。そうならないために、介護保険外で収益の柱となるものを見つけておく。そうした動きはこれからますます加速していくのではないでしょうか。
<文:宮下公美子>
* イオンが介護参入、スーパーに通所施設 20年度50カ所 (日本経済新聞 2015/7/19 )