特養で「おやつにドーナツ」 被告の准看護師は2審で無罪に
2013年に長野県の特別養護老人ホームで、准看護師が配ったドーナツを食べて入所者が死亡し、准看護師が業務上過失致死罪に問われていた刑事裁判。
2020年7月末、1審の有罪判決が破棄され、2審で無罪が言い渡されました(この訴訟については、こちらの記事も参考に
「介護現場での不幸な事故。訴訟になる施設とならない施設の違いとは」)。
日本の刑事裁判は極めて有罪率が高く、99%を超えています。すべての刑事事件のうち、検察官が起訴するのは37%。無実の人が刑事訴追(起訴されること)されて不利益を被ることがないよう、検察官は、有罪判決が得られる見込の高い事件でなければ起訴しないこととされているのです。
そういう意味で、このケースは、
・介護施設での死亡事故で、個人が刑事訴追されたこと
・2審で無罪を勝ち取ったこと
という2点から、非常に特殊な事件だと考えられます。
法律の専門家ではないので、なぜこのケースが刑事訴追され、1審の有罪が2審で無罪になったのかはわかりません。
しかし、この裁判によって、介護現場の一部には萎縮が生じたことが指摘されています。
固形で窒息の恐れがあるおやつの提供を控えるようになった。おやつの提供を中止した。そんな介護現場もあったと言われています。
2審無罪の判決は、介護現場に本来、必要のない過度の緊張、萎縮を取り除く効果があったのではないかと思います。
ドーナツでの窒息死は「予見できない」
一方で、この事故で「業務上過失致死」の罪に問われた意味を考えてみる必要もあるかもしれません。
犯罪には、「故意犯」、つまり明確な意思を持って犯行を犯している場合と、故意ではなく、不注意によって利益の侵害を生じさせた「過失犯」があります。犯罪行為を処罰するには、その行為による利益の侵害を、避けようとすれば避けられたことが立証される必要があります。
このとき、行為によってどのような結果が起こりうるかを予見できたか、予見してその結果を避けることができたかが問われます。これが過失犯で問題になる「注意義務」です。
この裁判でも、准看護師の「注意義務」が問われました。
2審の判決では、准看護師は、おやつを固形物からゼリー状のものに替えたという介護職同士の情報共有について、把握する必要はなかったとされました。
そしてまた、ドーナツを食べたからと言って窒息し、死亡すると予見する可能性が低かったとされ、
准看護師の「注意義務」違反だとは言えないとして、無罪判決となったのです。
介護士は、利用者のため十分な注意と予測する意識を!
ただ、この裁判とは別に、一般論として、刑法上、注意力が乏しいために結果を予見できないから過失犯に問われないかというと、そういうわけではないという指摘があります。法律は、他者の利益を侵害しないよう、「精神を緊張させること」を求めているからです。
つまり、刑法上、「精神を緊張させることなく、注意力を発揮せずにぼんやりと対応する」ことによって、他者の利益を侵害してはならないのだと考えられます。
もちろん、それは罪に問われることはなくても、介護の現場ではあってはならないことです。
自分の行為が他者(入所者、利用者)の利益を侵害することはないかを改めて意識する。
そして、「精神を緊張させ」、必要な注意を払ってケアにあたる。
それがしっかりできているか、自分自身の日常業務を振り返ってみる。
介護現場は、この「業務上過失致死」の罪での起訴で萎縮するのではなく、そうしたケアの「基本」を改めて見つめ直す機会にできると良いのではないかと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>
*ドーナツで特養入所者窒息死 准看護師に逆転無罪判決(朝日新聞デジタル 2020年7月28日)