2017年6月、2017年版の高齢社会白書が公表されました。高齢化率は、2016年からさらに上がって27.3%となっています。
超高齢社会となり、高齢者の意識や生活も変わってきています。延命治療についての希望では、65歳以上の91.1%が、「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」と回答しています。
今回は、白書の中から、高齢者の経済状況と就業についてのデータをピックアップして紹介します。
意外に良い?高齢者の暮らし向き
昨今、格差社会と言われ、子どもと高齢者の貧困がよく取り上げられます。
しかし白書によると、経済的な暮らし向きに心配はないと感じている高齢者は、64.6%に上ります。80歳以上に限ると、71.5%が「心配ない」と答えているのです。
▼高齢者の暮らし向き
*「平成29年版高齢社会白書」より
貯蓄額を見ても、2人以上の世帯では、世帯主の年齢が高くなるほど1世帯の純貯蓄額が増えています。世帯主が60歳以上の世帯でみると、貯蓄残高の中央値は1592万円。全世帯の中央値1054万円の1.5倍です。
年間収入を見ても、70歳以上の2人以上世帯で449万円あり、持ち家率も全年齢で最も高い93%となっています。このデータからすると、高齢者は非常に豊かであるように見えます。
▼世帯主の年齢階級別1世帯あたりの貯蓄・負債現在高、年間収入、持ち家率
*「平成29年版高齢社会白書」より
一方で、65歳以上人口に占める生活保護受給者の割合は、2.86%。全人口中の生活保護受給者の割合、1.67%より高く、増加傾向にあります。
持てる人と持たざる人の格差が広がっているということでしょうか。
働く意欲を持つ高齢者が増えている
一方、高齢者を「働く」という面から見てみると、労働力人口に占める高齢者の割合は増加傾向にあります。10年前の2006年には7.8%だったものが、右肩上がりで増加を続け、2016年には11.8%と4ポイント上昇しています。
働き続けたいという意欲も高く、就労中の高齢者の約4割が、「働けるうちはいつまでも」働きたいと答えています。
▼労働力人口の推移
*「平成29年版高齢社会白書」より
▼あなたは、何歳頃まで収入を伴う仕事をしたいですか
*「平成29年版高齢社会白書」より
中高年に人気の山田洋次監督の映画『家族はつらいよ2』では、70歳を過ぎて単身で暮らしながら、工事現場の交通整理をしている男性が登場します。
この男性は主人公の同級生ですが、偶然の再会を果たし、お酒を酌み交わした翌朝、主人公の家で急死します。
それに衝撃を受けた主人公は、「こいつが何をしたって言うんだ。なぜ1人で死ななくてはならなかったんだ。なぜ70歳を過ぎてまで炎天下で汗をかきながら働かなくちゃいけなかったんだ。年寄りに死ぬまで働けというのか」というようなことを叫ぶシーンがあります。
70歳を過ぎても働かなくてはならないのは「かわいそう」と受け取れるセリフです。しかし実際には、就労中の高齢者のうち、「仕事をしたいと思わない」と答えている人は、わずか1.8%。働きたくて働いている人が多いということですね。
一方、従業員31人以上の企業のうち、希望者全員が65歳以上まで働き続けることができるのは、74.1%です。まだ2割を超える企業で、働きたくても働き続けられない人がいるということです。
高齢者にとって問題なのは、「年をとっても働き続けなくてはいけない」ことではなく、むしろ「働きたくても働き続けられない」こと。
山田洋次監督の次回作では、「働きたいのになぜ仕事がないんだ!」と叫ぶ高齢者が登場するのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>