勘違いしがちな「高齢者の食事・栄養摂取」の重要性
歳をとったら、それほど栄養は摂らなくていい。そんなふうに誤解している高齢者がいます。
好きなものだけを食べて暮らしていきたい。酒が飲めればそれでいい。そんなふうに考える高齢者もいます。
そうでなくても高齢になると、徐々に食が細くなったり、嚥下(飲み込み)状態が悪くなったりすることがしばしばあります。
こうしたことから、高齢者には低栄養状態に陥ったり、誤嚥性肺炎を繰り返したりする人が少なくありません。
筋力の低下を防ぐために、デイサービスで機能訓練に取り組む高齢者はたくさんいます。
しかし、筋力を付けるには、機能訓練をするだけでなく、タンパク質を中心とした十分な栄養の摂取が必要です。それなのに、そのことを知らない、意識していない高齢者は少なくありません。
また、栄養が不足して低栄養状態になると、様々な病気にかかりやすくなること。じょくそう(床ずれ)にもなりやすく、なったら治りにくくなることなども、まだまだ知らない高齢者は多いと思います。
誤った知識に基づいて食事を摂っている高齢者には、正しい知識を伝えていく必要があります。
「誤嚥性肺炎」は食事以外の原因にも気をつけたい
一方、高齢者に多い誤嚥性肺炎を防ぐには、何が大切でしょうか。
食事介助のやり方に気をつける? 食形態を嚥下状態に合わせてソフト食やミキサー食にする?
もちろんそれも必要なことではあります。しかし、誤嚥性肺炎の多くは睡眠時の唾液の誤嚥で起きるといわれていることはご存じでしょうか?
つまり食事の摂取だけに注意を払っても、誤嚥性肺炎は防ぎきれない可能性があるということです。
嚥下がよくない高齢者が誤嚥性肺炎を起こし、入院すると、しばしば禁食(食事を食べてはいけないという医師の指示)になります。食事による誤嚥を防ぐためです。
しかし、実は、禁食にすることでかえって治療期間が長くなってしまったり、嚥下の状態をさらに悪化させてしまったりすることもあると指摘されています(*)。
さらに残念なことに、医師の多くは禁食のデメリットにはあまり目を向けず、誤嚥性肺炎=誤嚥を防ぐために禁食、という対応を取りがちだといわれているのです。
誤嚥性肺炎は、口の中の細菌が誤って肺に入ることで起こる病気です。
これを防ぐには、口の中の細菌が肺に入らないようにすること。そして、それ以前に、口の中の細菌をできるだけ減らすことが有効です。
誤嚥性肺炎を防ぐには口腔ケアが有効
そこで大切なのが、口腔ケアです。高齢になり、特に認知症になると、口腔ケアがおろそかになりがちです。
歯磨きの習慣がなく、歯の表面にびっしりと歯垢(プラーク)がついて、黄色っぽくなっている人は、口の中に無数の細菌を蓄えています。
そういう状態の人は、寝ている間に唾液を誤嚥すると、誤嚥性肺炎になるリスクがとても高いのです。
びっしりとついた歯垢は、本人や家族、介護職では落としきれません。歯科医師や歯科衛生士などの専門職に、落としてもらう必要があります。
しかし、周りにいる家族などが意識しない限り、歯にびっしりと歯垢がついている高齢者と歯科医師や歯科衛生士が直接出会うチャンスは、ほとんどありません。
この間をつなぐのは、介護職です。どうか口の中の状態がよくない高齢者がいたら、歯科受診を勧めてみてください。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士
宮下公美子>
*誤嚥性肺炎の絶食・抗菌薬、本当に必要?(日経メディカル 2017年9月13日)