65歳以上を一律に高齢者と見なすのは現実的ではない?
高齢化が進んでいくにつれ、社会のあり方も徐々に変わっていきます。高齢化率が7%を超えた社会は「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」と言われます。
日本の高齢化率が14%を超え、「高齢社会」となった1995年、「高齢社会対策基本法」が施行されました。また、高齢社会で起きうるさまざまな課題には対策が必要だということで、この法律に従い、対策をまとめた「高齢社会対策大綱」が、過去3回、策定されています。
このほど、4回目の大綱が策定され、2018年2月に閣議決定されました(*)。
今回の高齢社会対策大綱で注目を集めたのは、65歳以上を一律に高齢者と見なす考え方は現実的ではないとしたことです。
今の高齢者は体力的年齢も若く、意欲もある人が増えています。高齢者を「支える対象」として見るだけでなく、意欲のある高齢者にはどんどん能力を発揮してもらえるよう、環境づくりもしていこうというわけです。
働く意欲があれば、65歳以上の高齢者でも働ける環境を整備したり、それに合わせて年金の受給開始年齢に柔軟性を持たせたりすることについての検討を行うとされています。
介護人材確保の目標値は、5年間で48万人増
高齢社会対策大綱では、高齢社会に関するいくつかの項目を挙げ、数値目標も示しています。
この中に、2つ、注目すべき数値がありました。
1つは、「介護職員数の目標=231万人(2020年代初頭)」です。2015年度時点での介護職員数は183.1万人。5年ほどで約48万人増やそうという目標です。
2015年以前の5年間の介護職員数の推移を見ると、1年間の増加数は平均約8万人。6年かければ達成できるでしょうか。
高齢社会対策大綱には、「介護職員の処遇改善等により人材確保を図る」としか書かれていないので、具体的な対策は分かりません。新規就労者を増やすと共に、離職する介護職を減らしていきたいところです。
■介護保険制度施行以降の介護職員数の推移
出典:「介護人材確保地域戦略会議(第5回)」厚生労働省<クリックで拡大>
介護人材不足を補うための介護ロボットに期待
高齢社会対策大綱で掲げられた数値目標のうち、もう1つ注目したいのは「ロボット介護機器の市場規模の目標=約500億円(2020年)」です。
2015年のロボット介護機器の市場規模は24.4億円。5年で20倍以上にするという目標です。果たしてそんなに市場規模が大きくなるのか、と思いますよね。
介護人材は、2025年には37.7万人不足すると言われています。その解決策の1つとして注目されているのが、介護ロボットの活用です。そのため、政府は介護ロボット開発、導入にはとても力を入れています。
2013年には厚生労働省と経済産業省の共同で「ロボット介護機器開発5カ年計画」の実施が決定されました。経済産業省が開発を支援し、厚生労働省が実証実験の場の提供や、導入の支援を担うという計画です。
現在も継続中のこの計画では、移乗介助、移動支援、排泄支援、認知症の見守り、入浴支援などを行う、安くて使いやすい介護ロボット開発を進めるとしています。そして、2030年には介護ロボットの国内市場規模を、何と約2600億円にするという目標を掲げました。
介護ロボットというと、大きすぎる介護リフトなど、高価で大がかりだけれど今ひとつ使い勝手が良くないものをイメージしてしまうかもしれません。鳴り物入りで現場に導入された介護ロボットが、今は倉庫の隅でほこりをかぶっている、という話もよく聞きます。
しかし、今はさまざまな「使える」介護ロボットが開発されています。
たとえば、排泄のタイミングを知らせるもの。体温やベッド上の身体の動きを検知して体調の異変を知らせるもの。リモコン操作でベッドの一部が分離して車いすになるもの。
省力化や介護負担の軽減につながる介護ロボットは、実は探せばいろいろあるのです。
忙しい介護現場にいると、新しい介護ロボットの導入には消極的になりがちです。確かに、慣れるまでは面倒が多いかもしれません。
しかし、介護人材不足が進んでいけば、人でなければできないこと以外は、上手に介護ロボットやICT(情報通信技術)を活用していくことが、きっと必要になります。
介護職一人ひとりが、介護人材が不足しているという状況を知ると同時に、少しずつでも介護ロボットやICTの導入、活用に対して前向きに取り組んでいきたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*「高齢者65歳以上」転換 望ましい老後、模索(毎日新聞 2018年2月17日)