これからの介護は効果によって報酬が増える?質の評価項目の検討が課題
介護保険のサービスは、いよいよサービスの質と効果が厳しく問われる時代が近づいてきました。
2021年度の介護報酬改定で、効果について裏付けが取れた介護サービスの報酬を増やす方向での検討が進められることになったのです(*)。
介護保険サービスの質の評価については、2013年度から社会保障審議会で継続的に議論が行われてきました。質の評価を行う上で大きな課題となっていたのは、統一されたアセスメントツールが存在しないことでした。
居宅介護支援事業所では、「居宅サービス計画ガイドライン方式VIII」、介護施設では「包括的自立支援プログラム方式」がよく使われています。
これらのアセスメントツール間での互換性は特に考慮されていないため、統一されたアセスメントを行うのは難しいのが現状です。統一されたアセスメントが行われなければ、そこからの状態改善を適切に判定することができません。
介護サービスの質を評価する「データ項目」の作成がスタート
そこで、2014年度から、アセスメントに用いる項目についての検討がスタートしました。
手順は次の通りです。
(1)施設・居宅のどちらで暮らす高齢者にもよく起こる、自立支援を妨げるリスク要因として、転倒、発熱、誤嚥(ごえん)、脱水、褥瘡(じょくそう)、移動能力の低下、認知機能の低下を設定
(2)(1)で設定したリスク要因を評価項目とした指標「データ項目ver.1」を作成
(3)「データ項目ver.1」を用いて介護老人保健施設、居宅介護支援事業所からデータを収集して、収集しやすさと、リスクの発生を予測する際のデータとしての妥当性を検証
(4)軽度者の状態把握を目的とした新しい項目の検討のため、「データ項目ver.2」を作成
(5)「データ項目ver.2」を用いて、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、居宅介護支援事業所に調査を行い、データを収集。(3)と同様に、「データ項目ver.2」の収集しやすさ、妥当性と、アセスメント指標となり得るかについて検証
(6)介護サービスの質の評価について、「データ項目ver.2」を含む、いくつかのアセスメント指標が読み替え可能かどうかを検証
こうした手順を経て、「データ項目ver.2」は、2018年度、「データ項目ver.2.1」にバージョンアップされました。
「データ項目ver.2.1」でのアセスメントは、アセスメントの判断基準についてより詳しい説明(記載要領)を作成したことで、ADLや基本動作については、判断が明確になり、他のアセスメントツールからの読み替えが可能になったそう。
一方で、見当識、コミュニケーション、認知機能、周辺症状、歩行・移動の項目については、見直してもなお判断が難しく、課題が残ったとのことです。
▼データ項目ver.2.1(一部抜粋)
(出典:第159回社会保障審議会介護給付費分科会資料「介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究事業報告書」)
2018年度も、この「データ項目ver.2.1」を用いた調査が実施されます。
「データ項目ver.2.1」の評価項目は、今後、検証を重ねて確定させた上で、厚生労働省が新たに構築する、自立支援等の効果を科学的に検証するために必要なデータを収集するデータベースでも活用することになるようです。
大幅な改善がないと、「効果がある」とは認められない?
今後は、提供された介護サービスの内容と、どのような効果が得られたかについてのデータを収集し、どのようなサービスの組み合わせが、状態改善の効果が高いかを検証するとのことです。
介護サービスによる状態改善の効果は、現在検証中の「データ項目ver.2.1」で判断する、ということかと思います。そうなると、改善の幅が相当大きくないと、介護サービスの効果については評価されにくいように思います。
というのも、例えば「入浴」という項目の選択肢は、「自分で行っている」「自分で行っていない」の2択。「データ項目ver.2.1」の「記載要領」には、次のように書かれています。
・「入浴」とは、浴槽やシャワー室への出入り、入浴行為(シャワーを浴びることを含みます)、洗身(胸部、腕、腹部、陰部、太腿、膝下等)、洗髪の一連の行為を言います。
・一連の行為の中で見守りが必要な場合や、洗い残し等、洗浄が不十分であっても、全ての行為を自分で行っている場合は「自分で行っている」を選んでください。
・一連の行為の中で一部でも介助者が洗う等の直接支援が必要な場合や、入浴を行っていない場合は「自分で行っていない」を選んでください。
(出典:第159回社会保障審議会介護給付費分科会資料「介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究事業報告書」)
この記載要領によれば、一部介助も全介助も、「自分で行っていない」に該当します。となると、全介助だった人が、少し手助けがあれば自分で入浴できるようになっても、「状態が改善した」とは見なされないことになりそうです。
また、最初のアセスメントが適正かどうかのチェックも必要ではないでしょうか?
最初のアセスメントが適正でなくては、状態が改善したという評価の妥当性も怪しくなります。
効果が高い介護サービスについては、今後、ガイドラインが作られ、事業者に示されることになるとのこと。
3年後の介護報酬改定に向けて、これからどのようにしてガイドラインがつくられていくのか、注目したいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*介護の効果、報酬に反映 21年度にも(日本経済新聞 2018年9月14日)