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2019年09月12日

本当に必要な認知症支援って?「お世話する」のイメージを考え直してほしい | 「介護求人ナビ 介護転職お役立ち情報」

85歳の40%が認知症に。認知症を理解し、共に暮らすには?

認知症を持つ人が増え、85歳を超えると約4割、90歳を超えると約6割、95歳を超えると約8割が認知症になるというデータが、厚生労働省から示されています。
これからは誰もが認知症になることを想定する必要がある時代。
「すでに認知症になった人」と「まだ認知症になっていない人」が協力して、いかにして互いが暮らしやすい社会を作っていくかが大切になります。

そうした誰もが暮らしやすい社会に向け、地域住民が認知症について学ぶ場として、「認知症サポーター養成講座」があります。
しかし、この講座は座学で1時間半程度、認知症について学ぶだけ。一度この養成講座を受けただけで、認知症について理解するのはなかなか難しいものがあります。

そのため、介護関係者からは、「上級講座を開催すべき」「繰り返しの受講を促すべき」などの声も出ています。
しかし、国は「認知症サポーター養成講座」を、1回でも受講する人を増やしていくという方針。
なかなか、本当に認知症についての理解を広めるには時間がかかりそうな状況です。


段階的に学んで認知症を理解できる“体験型”の介護講座も

そんな中、独自の講座で、地域住民の啓発のために活動する専門職団体などもあります。
体験型で、初級・中級・上級の認知症介護講座を主催する団体「おれんじ畑」は、上級講座では、特別養護老人ホームの入所者と接する場も設けているそうです(*)。

一般の人の持つ認知症のイメージと、認知症のある人の実際の状態には、かなりギャップがありますよね。
『認知症になると何もわからない、何もできない、いろいろなことを忘れてしまう。』
認知症は、症状も状態も人それぞれなのに、そんなイメージが一人歩きしているように思います。

「何もわからない人」というようなイメージが一人歩きしていることによって、認知症を持つ人と接する際、必要以上に「かまえて」しまう人が多いように思います。
その点、「おれんじ畑」では、初級、中級と段階を踏み、上級講座で実際に認知症を持つ人と接するため、認知症を持つ人と接する際の「かまえ」が、少し緩むかも知れません。


本人が「やりたいこと」を引き出す『本人本位の認知症介護』とは?

介護職には、認知症を持つ人との接し方に慣れている方が多いと思います。
ただ、その「慣れている」ことが、実は問題かもしれないと指摘する介護職もいます。介護職の中には、一般の人ほどではないにせよ、認知症を持つ人は「ただ支援されるだけの存在」と考え、一方的に「お世話」をする人がいるからだというのです。

お茶を出し、食事を配膳し、お風呂に入れ、おむつを交換し、何もかも介護職がやってしまう。
そうした介護では、認知症を持つ人が自分の持つ力を発揮できる場面はつくれません。

本人本位の認知症介護で知られる、ある介護事業所では、長い時間をかけて、その人の生きてきた道のり、好きなこと、興味があること、得意なことを聞き出します。
そしてその情報を元に、その人ができること、やってみたいと思えることをできるように働きかけています。

たとえば、食が細くなっていた、認知症を持つ利用者の女性に対しては、こんな働きかけをしました。

その女性の出身地が漁港だったことから、職員が、よく捕れる魚は何かと問いかけます。女性の答えを聞き、今度は、その魚をおいしく食べる調理法は何かを尋ねます。
さらにその答えを聞き、「それじゃ、今からそれを一緒に作ろう!」と言って、一緒に買い物に出かけました。

そして、買ってきた魚をその女性にさばいてもらい、調理の仕方を教わります。できあがった魚料理は、利用者、職員みんなで食べたそうです。
食が細くなっていたこの利用者の女性も、慣れ親しんだ料理に久しぶりに取り組んで、できあがった料理をみんなに「おいしい」と言われ、久々に食が進んだと言います。


誰もが認知症になり得る今、認知症がある/ないの線引きの意味は?

この事業所では、認知症を持つ人は、苦手になっていることはあるけれど、それ以外は自分たちと何も変わらないと考えています。
そして、苦手なことは、認知症を持つ人だけでなく、自分たちを含め、誰にでもあると言います。つまり、認知症を持つ人と自分たちとの間にはたいした差などない、と言うのです。

介護職の中にも、「認知症を持つ人は支援が必要な人」という固定観念にとらわれ、「自分たちと認知症を持つ人にたいした差はない」という考え方になじめない人がいるかもしれません。

しかし、今後、ますます認知症を持つ人が増えていく中、「自分とは違う支援が必要な人」と線引きをすることにどれほどの意味があるでしょうか。

それより、互いの苦手な部分をどう補い合うかを考えた方がいい。
その方が、よほど誰もが楽しく、暮らしやすい社会になるのではないかと思います。

<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>

*認知症の人との接し方講座 体験重視、地域対応力アップ(毎日新聞 2019年8月15日)

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