『ケア』が仕事の介護と保育は、キャリアチェンジが可能?
乳幼児をケアする保育士と、高齢者をケアする介護士。
ケアの対象は異なりますが、人と向き合い、支援していくという点は共通します。
少子化の進行で、保育所の待機児童がいなくなった青森県では、同一法人が運営する保育所と特別養護老人ホーム職員の人事交流を行っているところがあるそうです(*)。保育所勤務だった保育士が、特別養護老人ホームで介護士として働いているのです。
これは、今後、さらに少子化が進行した際、保育所の運営が厳しくなることを見越しての対応です。
保育人材と介護人材の交流については、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士の有資格者が保育士資格を取得しやすくなる措置が、すでに取られています。保育士の筆記試験の科目が一部免除されたり、保育士養成施設での履修科目が一部免除されたりしています。
一方、保育士養成施設卒業者が介護福祉士の資格を取得する際には、保育士養成施設卒業生向けの1年制の介護福祉士養成施設を卒業すれば、介護福祉士国家試験の受験資格を得られます。
共通点が多い「介護」と「保育」、資格取得に必要な知識も共通化できる?
参照記事では、フィンランドのケア職の資格についても紹介されています。
「ラヒホイタヤ(日本語で“寄り添う人”)」と呼ばれる資格があれば、フィンランドでは介護、看護、保育の仕事に就けます。看護の知識と技術は、介護、保育とは少し違う部分も多いと思いますが、保育と介護には「自立支援」という視点から考えれば、共通する部分が多いように思います。
保育士と社会福祉系資格の取得については、2017年に厚生労働省から「共通基礎課程の創設」が検討課題として挙げられていました(「『地域共生社会』の実現に向けて(当面の改革工程)」より)。
これは、保健医療福祉の各資格を通じた基礎的な知識や素養を身につけた専門人材の養成を目指したもの。これまで「縦割り」だった養成課程を「まるごと」に変えていこうという提案です。
出典:「平成29年度全国厚生労働関係部局長会議資料 配布資料1 政策統括官(総合政策担当)」
「共通基礎課程」で多様な資格取得が目指せるように
このときは、2017年度から共通基礎課程の検討を開始。
2021年度に対人支援を行う専門資格を通じた
新たな共通基礎課程の実施を目指すとされていました。これは、モジュール認定(部分資格制度)を取り入れているオランダなどの資格制度を参考にしたものです。
オランダを例に取ると、中等職業教育は4段階。レベル1はアシスタント教育、レベル2は基礎職業教育、レベル3は専門職教育、レベル4はミドルマネジメント教育もしくはスペシャリスト教育。この上にさらにレベル5があり、こちらは高等職業教育レベルとなっています。
それぞれのレベルで求められる知識・能力のモジュール(要素)が複数あり、1~4のレベルごとに設定されているすべてのモジュールが認定されると、そのレベルに到達したという証明書が得られる仕組みです。
日本でも検討されることになっている「共通基礎課程」は、このオランダなどでの資格制度を参考に、
保育士、介護福祉士、社会福祉士などに共通する基礎教育課程を設けるというもの。
共通基礎課程を修了していれば、その後、社会福祉士でも介護福祉士でも、これまでより短い履修期間で資格取得を目指せるという仕組みです。
しかし、この共通基礎課程、その後どのように検討が進められているのか、情報がありません。2021年度から実施、とされていましたが、果たして実現するのでしょうか?
介護業界で多様なキャリアパスを選択できるようにするために、また、多様な人材に介護業界に入ってきてもらうために、早く実現してほしいものです。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*保育士が足りない(4) 将来は一転、人余り?(日本経済新聞 2019年9月12日)