多くの人が待ち望む「認知症治療薬」。またも開発中止に…
全世界で約5,000万人、日本には約500万人いると言われている、認知症を持つ人たち。
現在使われている認知症の症状を改善する治療薬に加え、根本的に治すことができる薬の開発が待たれています。
しかし、治療薬開発の臨床試験(治験)は中止が相次いでいます。
介護職の皆さんも、利用者のためだけでなく、自分自身の親族や、あるいは将来の自分自身のためにも、有効な治療薬の開発を期待する気持ちは大きいことと思います。治療薬の開発中止が続くのは、非常に残念なことですね。
治療薬の開発が中止になる理由は、いくつかありますが、その中の1つが、治験協力者の選定が不的確であったことだと言われています。
認知症治療薬の開発は、何が難しいの?
現時点では、認知症は、特定のタンパク質が脳の中で異常に増えたり蓄積したりすることで引き起こされると言われています。
そして、今、開発が行われている治療薬は、特定のタンパク質が増えたり蓄積したりするのを防ぐことを目指しています。
認知症と開発中の治療薬の関係を簡単に書くと下記のようになります。
タンパク質が蓄積する → 認知症になる
治療薬を投与する → タンパク質が蓄積しない → 認知症にならない
つまり、この治療薬の治験協力者としてふさわしいのは、原因となるタンパク質が脳内にまだ蓄積していなくて認知症になっていないけれど、認知症になる可能性がある人、ということになります。
しかし、果たしてどうやってそういう人を見つければいいのでしょうか。
この治療薬の
治験協力者にふさわしい人を探すのはとても難しいと言われています。
ネット上の記憶テストで「治験候補者」を確保
そこで、このほど東京大学の研究者が中心となって始めたのが、2万人規模の疫学研究です(*)。
この研究では、まずインターネット上のサイトで、認知症の診断を受けていない50~85歳の男女にできるだけ多く登録してもらいます。そして、そのサイトで3か月おきに記憶のテストを受けてもらい、治験対象としてふさわしい人を見つけ出し、大勢確保しておこうというのです。
すでに登録受け付けは始まっています。
まず、サイトで最終学歴や雇用状況、認知症を持つ人が家族にいるか、運動や飲酒の習慣はあるかなどの生活状況を登録します。
そして、次に4つの記憶テストを行います。
1つめは、処理速度のテスト。
画面上のカードがめくられたら、「はい」と答えるテストです。キーボード上で「はい」に該当する一文字が指定されるので、めくられたらすぐその文字を押すだけです。
2つめは、注意力のテスト。
今度は「いいえ」に該当する一文字も指定され、めくられたカードの色が赤か黒かによって、「はい」か「いいえ」かを答えます。
3つめは、視覚性記憶のテスト。
めくられたカードを、この課題への取り組みの中で見たことがあるかないかを「はい」「いいえ」で答えます。
4つめは、作業記憶のテスト。
めくられたカードが、1つ前にめくられたカードと同じか違うかを、「はい」「いいえ」で答えます。
20分ほどでできるこの4つのテストを3か月ごとに受けることで、
認知機能の変化を見るわけです。
テストの結果から、認知機能に変化が見られる場合、病院等でさらにテストを受検する案内が来る場合もあるとのこと。さらにその結果により、治験についての情報提供が行われる場合もあるそうです。
また、受検者は、記憶テストの結果を1週間程度で見ることができます。
認知症治療薬の開発に貢献するためにも、50~85歳の方は、登録し、記憶テストに挑戦してみてはいかがでしょうか。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*東大が認知症の疫学研究 2万人規模、ネットで参加(Yahooニュース 2019年10月31日)