介護報酬の引き下げや一部利用者の自己負担割合2割化など、2015年の制度改正は、事業者にとっても利用者にとっても厳しいものでした。それが今後ますます厳しくなっていくという方針が、財務省から示されています(*)。
財務省が、本気で介護費用を絞り込む案を示した
なぜますます厳しくなっていくのでしょうか。簡単に言えば、国にお金がないからです。高齢化が進み、高齢者が増えれば、どうしても介護や医療などの社会保障関係の費用はどんどん膨らみます。この3年、国は生活保護の受給を見直したり、介護報酬を引き下げたりして、毎年1200億円から1700億円、社会保障関係の費用を減らしてきました。それでも、3年間で社会保障関係費は28.9兆円から31.5兆円と、2.6兆円も増えています。これは高齢者の人数が増えたことによる自然増。そして、認知症施策、マンパワーの確保といった、社会保障の充実のための費用によるものです。
団塊の世代が後期高齢者になりはじめる2020年代には、社会保障関係費はさらに増えていきます。そこで、財務省は今から予算を絞り込み、当面、現状程度の増加割合に抑えていこうとしているのです。
2015年10月、財務省はそのための社会保障改革の工程表を発表しました。以下の表は、その中から、高齢者介護関連の内容をピックアップしたもの。そこには、改革の内容だけでなく、その実施時期の目当てまでが、一緒に示されました。「財務省の本気度」が伝わってくる内容です。
この改革で、特に大きな影響を受けそうなのは軽度要介護者。訪問介護の生活援助が自費化され、通所介護が介護保険から外される(自治体へ移行する)案が示されているからです。
この案通り制度改正されれば、生活を支えるサービスを失う高齢者が大勢出る可能性があります。その高齢者を地域でどう支えていくのか。そして、介護保険で得られる収益が減っていく中、どうやって収益を上げていくのか。この両方を、介護関係者は本腰を入れて考えていかなくてはなりません。
適正なサービスであると「見える化」することが大切
また、この財務省の案通りに実施されれば、制度改正でサービスが削減されるだけではなさそう。市町村の指導による削減も増える可能性が大です。というのも、市町村に給付の適正化を求めていく案が示されているから。今、要介護認定率や利用者1人あたりの介護給付費には、地域によってばらつきがあります。それを認定率が低い市町村、給付費が少ない市町村をモデルに、低減していく「適正化」が強化されるのではないでしょうか。
どういうやり方で、市町村が適正化を求めるようになるかはまだわかりません。しかし、それに対応できるよう、介護職はこれまで以上に根拠を持ったサービス提供を心がけることが必要かもしれません。
つまり、利用者の課題をきちんと把握して、その課題を解決する支援を検討。その支援を提供することでどのような目標の達成を目指すのか。提供して実際、どれだけの成果があったのか。目標はどれだけ達成できたのか。それを第三者が見てもわかるよう、示せるようにするということです。
言い換えれば「適正なサービス提供」を行っていることを「見える化」すること。「適正化」を図ろうとする市町村職員にも、その必要性と効果を納得してもらえるサービス提供。介護職は今から、それを心がけていくことが大切です。
2018年度には、医療と介護の報酬同時改定が控えています。ここで大きな影響の出る改定がされるのは間違いありません。日々の仕事に追われがちな介護職ですが、その大波に備え、介護保険のこれからについての情報には敏感になっていたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
●こちらの記事も参考に
→介護職なら知っておきたい!2018年度介護保険改正で介護医療院を新設
→自立支援の介護をどう評価する?要介護度の改善は1つの物差しだが…
→訪問介護の生活援助は家事代行と同じ?ヘルパーならではの専門性とは
*財務省が介護保険の自己負担2割を提案 2016年末までに結論(2015年10月19日 福祉新聞)