2024年度介護報酬改定の審議が5月24日、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭国立社会保障・人口問題研究所所長)でスタートした。新報酬は来年1月頃に示される予定だ。
物価高騰が経営を圧迫する中、5月には介護関連11団体が連名で岸田文雄首相へ、一般企業と同等以上の賃金引き上げができるよう、24年度の介護報酬改定における対応の実施を要望している。また、今改定は「テクノロジー活用による人員基準緩和」「複合型サービスの類型や基準・報酬」「福祉用具貸与・販売種目のあり方」など、昨年の介護保険部会から引き継いだ宿題も多い。
同分科会では、訪問介護や通所介護といったサービスごとの審議のほかに、分野横断の柱となるテーマを設定して検討を行うのが通例となっている。
厚労省は今回、
(1)地域包括ケアシステムの深化・推進
(2)自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進
(3)介護人材の確保と介護現場の生産性の向上
(4)制度の安定性・持続可能性の確保
――の4項目を提案した。
前回(2021年度)改定で柱の一つだった「感染症や災害への対応力強化」のテーマは、これまでの新型コロナウイルス感染症への対応の経験などを踏まえ、今回外している。
診療報酬との同時改定であることから、委員から「医療介護連携は個別のテーマとして追加すべき」との意見も複数あった。
今後の検討スケジュールは図の通り。同分科会では通常、検討テーマに沿って委員から広く意見を集める第1ラウンド、委員の意見を踏まえて同省が具体案を示し、議論が本格化する第2ラウンドがある。
今回は10月以降が第2ラウンドとなる。その後、12月中に基本的な考え方の整理・とりまとめを行い、翌年1月頃に報酬の単価や加算の算定要件などが示される予定となっている。
審議のキックオフとなった今回、各委員からは処遇改善の拡充を求める声が相次いだ。
「介護事業所で働く全ての職員の処遇改善が不可欠。分野横断テーマも『介護人材の確保及び処遇改善と介護現場の生産性の向上』と処遇改善のフレーズを明示した上で議論すべき」(古谷忠之委員=全国老人福祉施設協議会参与)、「若い世代をもっと増やすためにも、安心して働き続けられるような処遇が極めて重要」(稲葉雅之委員=民間介護事業推進委員会)、「当協会を含む4団体で実施した調査では、今年度ベースアップありの賃上げを実施できた事業所は33.5%に止まり、全体の賃上げ率も1.42%と一般企業の春闘における3.69%とかけ離れている。このままでは介護業界が破綻するおそれがあり、適切な処遇改善を行うための財源確保が不可欠」(東憲太郎委員=全国老人保健施設協会会長)など、処遇改善の実施や財源確保を求める意見が多数挙がった。
これに対して、「これまで実施された改定の検証をしっかり行ってもらいたい。処遇改善のために他でのメリハリ付けが重要」(井上隆委員=日本経済団体連合会専務理事)と、処遇改善実施は否定しないものの検証や他での抑制が必要とする声もあった。
また、「中央福祉人材センターによると、21年度のケアマネジャーの有効求人倍率は3.04倍で対前年度0.51ポイント増。介護職員、その他の職種の中で最も伸びが大きい。現行の処遇改善加算や特定処遇改善加算に居宅介護支援事業所のケアマネジャーも対象に含めるなど、賃金改善可能な方策によって人材確保の改善につなげるべき」(濵田和則委員=日本介護支援専門員協会副会長)、「本市でもケアマネ不足の声があがっている」(長内繁樹委員=全国市長会、豊中市長)など、ケアマネ不足への対応を求める声もあった。
物価高騰に対しては、「事業所運営に多大な影響を及ぼしている。基本報酬での対応や基準費用額の物価スライドなどの対応が不可欠」「物価の動向は今後の見通しも立たない。従来の改定プロセスとは異なる対応の検討が必要ではないか」などの意見が寄せられた。
昨年の介護保険部会から引き継ぐテーマも多い。
例えば、▽複合型サービスの類型の新設 ▽施設入所者への医療提供 ▽LIFEの拡充、項目の精査 ▽福祉用具貸与・販売種目のあり方 ▽テクノロジー活用での人員基準緩和の可否 ▽介護助手の制度上の位置づけ ▽老健や介護医療院の多床室の室料負担導入――などがそうだ。
同省は「特に、今年の給付費分科会の中で議論をさせていただきたい内容」と説明し、これらの論点を挙げた。
注目の一つが、テクノロジーを活用した介護付きホーム等での人員配置基準の緩和だ。
昨年度、「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業」を実施し、すでに前回の同分科会で報告書を示している。
緩和に慎重な事業者団体や職能団体と、緩和を強く求める経済界や保険組合などで賛否が分かれる中、注目を集めている。
訪問や通所系サービスを組み合わせた複合型サービスの類型の新設も検討する。
介護保険部会が昨年末にとりまとめた意見では、「特に都市部における居宅要介護者のさまざまな介護ニーズに柔軟に対応できるよう、複数の在宅サービスを組み合わせて提供する複合型サービスの類型の創設を検討することが適当」と位置付けた。
サービスのあり方、類型、具体的な基準や報酬などが今後 検討される。
すでに日本看護協会が「訪問看護と通所系」、全国定期巡回・随時対応型訪問介護看護協議会が「定期巡回と通所系」を一体的に提供できる類型を設けるように求めている。
その他、▽包括報酬か出来高か ▽定員規模 ▽従来のサービス事業所が参入しやすい基準か――などにも注目が集まる。介護保険部会では、「全国一律に取り組むべきかどうかも含めて検討が必要」などの意見が挙がっていた。
LIFEは、入力負担の軽減やエビデンス創出、フィードバックで役立つものとなるよう、項目の見直しが検討される。厚労省は今年3月末まで、次期改定の検討材料として、新規指標の提案をウェブ上で受け付けていた。
また、訪問系サービスや居宅介護支援での活用を推進するための検討も行われる見込みだ。
ストレートな施策では、通所系や施設系のように関連加算を設ける方法が想定される。
同省は昨年度、活用の可能性を探るため、訪問介護、訪問看護、定期巡回、居宅介護支援でモデル事業を行っている。この結果なども踏まえながら、今後検討が行われることになる。
福祉用具貸与・販売種目のあり方の議論も再開される。
介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会が昨年9月にまとめた「これまでの議論の整理」では、比較的廉価で、ある程度中長期でレンタルされている歩行補助つえや固定型スロープについて、利用者が「貸与と特定販売の選択を可能とすることが考えられるのではないか」と提起した。
その後、調査研究事業も実施し、その結果をもとに今年7月以降、同検討会で改めて議論される予定だ。
<シルバー産業新聞 2023年6月10日号>
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