毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「絶対にエスカレーターに乗らないヘルパー」という話題について紹介します。
あるヘルパーが「今も忘れられない」男性利用者
都会生活を送っていると、数え切れないほど目にするエスカレーター。
地下鉄を利用したり、ショッピングモールで買い物をしたりすると、1日に10回も20回もお世話になる。
しかし、都内の事業所で訪問ヘルパーとして働く30代の男性・シゲルさんは、ある利用者の言葉がきっかけとなり、それ以来、エスカレーターを一切使っていないという。
シゲルさんは、大学卒業後にフリーター生活を経て、ヘルパーに転職。訪問ヘルパーとしてすでに10年以上の経験を持っている。
そんなシゲルさんが「今も忘れられない」というのが、ある男性利用者のNさんとの出会いだ。
身寄りのないNさんは部屋の中が散らかり放題で、同じく自宅が散らかり放題だったシゲルさんと妙に意気投合。
「少しぐらい片付けたらどうですか?」
「そういう君の部屋は掃除してあるのかね」
こんなふうに、ふたりは軽口を叩ける関係だったという。
階段を登れなくなるその日まで…
“事件”はシゲルさんがNさんを車椅子に乗せ、買い物の付き添いに出かけた際に起こった。
ちょっとした用を頼まれたシゲルさんが、階段を駆け上がって用事を済ませると、Nさんが礼を述べたあと、こう言ったのだ。
「ワシももう1回、階段を駆け上がりたいもんだなぁ……」
その後Nさんは、学生の頃に山岳部にいたこと、社会人になっても山歩きが趣味だったこと、大病を患って一気に足腰が弱くなってしまったことなどを語り、元気に歩けることがいかに大切かをシゲルさんに説いた。
それを聞いてシゲルさんはこう思ったそうだ。
「そのときまで自分は、エスカレーターがあるのに、階段を登るなんてことはまずしない人間だったんです。
けれどもNさんに『いいなぁ、階段が上がれて』と言われて、ものすごくショックを受けました。
だから僕はそれ以来、『自分の足で登れるうちは階段を使おう。そのうち、登りたくても登れなくなる日が来るんだから』と思い、必ず階段を使うことにしています」
ちなみにシゲルさんは、175センチで80キロ台後半という立派な体格の持ち主だが、“階段生活”が始まってからも「残念ながら、まったく体型は変化してません(苦笑)」とのこと。
しかし、当初は20段程度の階段でも息切れしていたものの、今では4~5階までなら2段飛ばしでグイグイと階段を登れるようになったそうで、「エスカレーターを使わない生活をいつまで続けられるか、自分でも楽しみです」と語っている。
公開日:2017/5/8
最終更新日:2019/5/18