毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「花火大会の特等席にご招待」という話題について紹介します。
訪問ヘルパーが利用者とお祭りの話で盛り上がっていると…
「良い品が安く買えた」「手に入りにくいものが手に入った」など、世の中には“役得”のある仕事も多い。
東京都の下町の、とある訪問介護事業所では、年に1回、特等席で花火を見られるイベントがあるという。人と人の繋がりが命の介護業界ならではのエピソードを、同事業所に勤めるスズキさんが語る。
「ウチの事業所がある地域は都内でもとりわけ庶民的で、夕方になると、地元のお年寄りの中には、上半身裸にステテコ姿で水撒きをする人もいるような場所です。
あるとき、ウチの若い女性スタッフがある利用者のお宅を訪れました。すると、部屋の中にお祭りの半纏がかかっていたそうで、そのことを尋ねたところ、お祭りの話で大層盛り上がったようなんです」
高齢者は、現在の記憶が曖昧になってきたとしても、昔のことはよく覚えているもの。その利用者は元・大工で、地元のお祭りで御輿を担ぐのが最大の楽しみだったという。
そして、若い女の子が、自分の昔話に真摯に耳を傾けてくれたことが嬉しかったのか、話は思わぬ方向に……。
イベントを可能にした上司の柔軟な判断とは?
「その方は、よっぽど嬉しかったんでしょうね。『お姉ちゃん、花火は好きかい? 特等席で花火を見せてやる』と言ったそうなんです。
スタッフは固辞したのですが、『ウチに来るなら構わないだろ?』と。その方はかつて工務店を経営していらして。今も自社ビルを持っていて、その屋上から花火が見られると言うんです」
スズキさんの事業所に限らず、ほとんどの事業所では利用者から便宜を受けるのは固く禁じられている。しかし、その報告を受けた上司の判断は柔軟だった。
上司は「我々が招待されるわけにはいかないから、招待することにしましょう」と提案。施設のイベントとして屋上を借り、日ごろお世話になっている方を招待することにしたのだ。
当日はスタッフがほぼ総出で利用者を招き、特等席で花火を楽しんだという。
スズキさんはこう話す。
「利用者とのプライベートな付き合いを避けるのは、この仕事の鉄則なんですが、それで利用者との信頼関係が崩れるようなら、本末転倒だと私は思うんです」
特等席から花火を見られたお年寄りの中には、涙を流さんばかりに感激する人もいるのだとか。花火大会鑑賞は今年も開催され、大好評だったそうだ。