毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「苦手だった利用者が……」という話題について紹介します。
こだわりが強くて苦手だった訪問介護の利用者
訪問ヘルパーは、不特定多数の人と触れ合うのが仕事。本来は「あの人はイヤ」と、訪問先を選り好みすることなど許されないが、どうしても苦手意識を持ってしまう利用者がいることもあるだろう。
都内の訪問介護事業所で働くミホコさんは、かつてとても苦手な利用者がいたが、そのことを大いに反省する結果になったという。
その利用者は一人暮らしのYさんという90代の女性。Yさんのお宅は大変広く、美術品なども飾られていて、いかにも裕福なことがうかがわれたが、ミホコさんはYさんが苦手で仕方がなかったという。
ミホコさんがいう。
「Yさんはとにかくこだわりが強いんです。洗濯物の干し方・たたみ方、洗い物の手順、スポンジや洗剤を置く位置、掃除機をかける場所の順番、クーラーや暖房の設定温度……とにかく何から何まで自分の思い通りじゃないと納得いかないみたいなんです。
それに応えるのも私の仕事なので、そのこと自体はまったく問題ないのですが、私がYさんの思う手順でやらないと、さも非常識なことをしたかのように顔をしかめるのがイヤで……」
「これがいわゆる“姑のいびり”というものか」と思ったというミホコさん。
何回も通ううちにYさんのやり方を理解したため、Yさんのしかめっ面を見ることはなくなったが、Yさんに対する苦手意識は消えなかった。
ところが、1年ほど経つとYさんは体調を崩して亡くなってしまった。
そこでYさんのお通夜に伺うと、ご家族から1冊のノートを見せられたという。
亡くなったあとに利用者の思いを知ることに
「お通夜に伺った時、ご家族に挨拶をしたら、『ミホコさんですね。大変お世話になりました』『○○の時は○○で……』『いつも××してくださって……』と、私の情報をものすごく把握しているんです。
不思議に思ってそのことを尋ねると、ご家族が1冊のノートを持っていらして、私が体育大学出身であること、子どもが2人いること、夫は公務員だということ、趣味はテニスだということ、上の子どもが関西の大学に行っていること……私がYさんに話したことが、事細かに記されていたんです。
そしてご家族は、『母はよくYさんのことを話していました。“とっても優しい人なの”“とってもよく気が付く人なの”と言っていたので、ぜひお礼を言わなくてはと思っていたんです』と仰ったんです」
Yさんはミホコさんのことをとても気に入っており、忘れないようにと、ミホコさんが話したことをメモしていたのだった。
それを知ったミホコさんは涙が止まらなくなり、今でもYさんのことを思い出しては反省しているのだそう。
以来ミホコさんは、どんなにワガママな利用者を担当することになっても、「二度と『この人は苦手』と思わないことにした」そうだ。