25年以上も長く勤めた出版社を退職。そこから介護の世界に飛び込んだという、ユニークな経歴を持つR・Uさん。生活のためというより、自分を見直すためにこの仕事を続けてきたといいます。介護の世界が、どうRさんを変え、またRさんの本質とリンクしたのでしょうか。4回に分けて、じっくりと聞いてみました。
*R・Uさんの「私が転職した理由」…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
R・Uさん(58歳)の転職経験
大学卒業後、絵本の出版社で25年以上勤務。母の介護・死を経験し、激務もあって退職
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3カ月ゆっくりと過ごした後、40日間かけてホームヘルパー2級の資格を取得
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有料老人ホームにパートとして入るが、3カ月で退職
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デイサービスにパートとして1年勤務
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現在のグループホームにパートとして4年間勤務
激務に疲れた頃に、母のガンがみつかった
大学を卒業して以来ずっと、絵本の出版社で働いてきました。出版の仕事には誇りを持っていましたし、若い頃は仕事が楽しくてしかたがなかった。
けれど、不景気で、しばらく社員採用を控えていたせいで、自分たちの後輩には30代は少なく、いきなり20代が大人数になるんです。キャリアバランスがよくないんですね。だから、40代、50代になっても仕事が楽にならない。いつまでたっても役職につけず、現場の第一線で働かねばなりません。年齢を重ねるとともに残業がつらくなり、朝、出勤前にゆううつになることも多くなって。そろそろやめどきかな、と思いました。子どもたちも30代、それぞれに独立し、お金の心配はありません。家もありますし、私自身は、もう働かなくても生活していけます。そこで、やめようと思っていた最後の年は、担当をはずしてもらい、暗に退職をほのめかせました。そんな折に、田舎から久しぶりに連絡があり、母がガンの末期だと知ったのです。
介護休暇をとり、郷里に帰ることにしました。病院で母を見舞うと、拍子抜けするぐらい、元気でした。本当にこの人が末期ガンなのだろうか。でも、姉は、こう言いました。「母さんのガンは進行していて、もう手術は不可能。ならば、つらい放射線治療などしないほうがいいと思うの。しても、母さんの場合はたぶん助からないし。退院して、治療をせずに自然死を待ったほうがいいと思っている」と。
当時の私の感覚では、病院にいて、なんとかして医療によって1日でも2日でも、命を長らえてほしい。家で何も治療をせず、ごはんがのどを通らなくなった母が死んでいくのを見ているのは、あまりにつらすぎると思いました。点滴ぐらいしたっていいじゃない。胃ろうだってある……。しかし、姉は言うのです。「胃ろうをしてまで、母さんを生かしておきたいの?それは、おかしいと思う。人間の最期は、枯れるように命を閉じるべき…」と。
何が何だかわかりませんでした。しかし、私は高校を卒業して以来、実家から出て、母に会うのは年に一回あるかないか。その後はずっと姉が母の世話をしてきたのだから、文句は言えないと思いました。だから、強く反論できなかったのです。
でも、つらかった。元気だった母も、病魔に負けて、どんどんやせ細ってきました。痛み止めの座薬などを入れていたので、母が苦しがることはありませんでした。しかし、弱りに弱ってトイレにも行けなくなった頃、オムツ替えをして、仰天しました。母のお腹と背中は冗談抜きでくっつきそうなほど薄っぺらく、まるで紙のようでした。私は洗面所でひとり、泣きました。
退職してウキウキしていたのは最初だけ
その後、母は本人や家族が望んだとおり、自然に死を迎え、息を引き取りました。
葬儀を終え、私は正式に、会社に辞表を出しました。そしてその年の4月から自由の身になりました。
最初は、ウキウキしていました。ずっと毎日仕事をしていて、できなかったことがたくさんあります。晴れた日に布団が干せる幸せをかみしめ、ずっとやりたかった家のリフォームもしました。
しかし、それも終わると手持ち無沙汰になってしまって。何をしようか、考えているときに、介護のことが浮かびました。
母の死には、まだ納得できていませんでした。生きることってどういうことだろう、死ぬことって? 母はきっと、私にそのことを考えさせるために死んだのだな、と思えてきました。どんなに老いても、親は子どもに教えてくれるものだと思い、また涙が出ました。
そこで40日間のヘルパー2級講習を受けることにしました。人の生死に携わり、自分をみつめてみたい。そんな思いで、一生懸命に授業を聴きました。
次回は、介護業界で働き始めるRさんの状況をお伝えします。
*R・Uさんの「私が転職した理由」…1回目、
2回目、
3回目、
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