美容学校を出て、美容師の国家試験に合格し、原宿のサロンに勤める……。美容師として好スタートを切ったSさんですが、美容師としてずっと働き続けることに疑問を持ち、「挫折した」と言います。それからさまざまな職業を体験し、介護にたどりついた途端、「これは楽しい!」と思えたそうです。なぜ、美容師から介護に? Sさんの軌跡をたどり、「転職」と「天職」について考えてみましょう。
*W・Sさんの「私が転職した理由」…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
W・Sさん(31歳)のプロフィール・転職経験
●介護業界歴…5年
●転職回数…4回(介護業界は1回)
●介護の仕事に就く前の経験…美容師、古着店店員、飲食店店員、図書館受付
●現在の勤務先…小規模デイサービス
●保有資格…介護福祉士
美容師として理想のスタートだったのに
美容師になりたくて、高校卒業後に美容学校に行き、国家試験に合格。原宿の有名サロンに就職しました。同じ業界の若手なら、「うらやましい」と思うスタートだったと思います。学生時代からバイトで通っていたそのサロンでは、将来を有望視され、雑誌などにも、僕のスタイリングが掲載されました。「1年目ですごいね」と、友達からもうらやましがられました。
でも、美容師の仕事は本当にきついんです。朝、出勤して、サロンが営業している間はほとんど休みなし。昼ごはんに使える時間は約2分しかありません。バックヤードでコンビニのおにぎりを口に突っ込むのもようやく、という感じです。営業時間が終わると今度は、先輩の指導を受けての練習。帰るのは毎日のように終電です。年中無休のサロンだったので、本当に休みがありませんでした。ここまで働いて、給料は手取りで10万円がやっとです。
カリスマ美容師になるには、まだまだ長い年月がかかる。もちろん、なれない可能性だって高いのです。それまでこの生活を続けていけるだろうか――。
六本木のサロンに勤めたこともあります。ここも華やかでした。年配のお客さんに気に入られて、営業時間の終了後に飲みに連れて行ってもらうのですが、それが連日となると、また疲れがたまります。都心のおしゃれな場所で働くには、洋服代もかかるし、多少は気取っていなければならない部分もあります。そういうことにもだんだん疲れてきました。
埼玉の地元に戻って、もう少し楽に美容師をやろう、と思い立ち、六本木の美容師を辞めました。地元で働けば確かに通勤時間は短くなるし、気分的にも楽でした。しかし、地元のお客さんは、「いつもと同じヘアスタイルにして」「セットが楽な髪形ならなんでもいいわ」という感じ。都心で最新のスタイルを追求していた自分にとっては、物足りなく感じるようになりました。
都心なら疲れる、地元なら物足りない。わがままですよね。今思えばもったいなかったと思います。もっと都心で頑張ればよかった。でも、20代の前半をただサロンと家の往復だけで過ごし、慢性的に疲れた体で夢に向かっていけるほど、当時の僕は大人ではなかった。遊びたかったし、恋愛もしたかった。それで、美容師を辞めてしまいました。そして、その後はただ生活費を稼ぐために別の仕事を始めたのです。
古着屋、飲食店、図書館…さまざまな職業を経験
美容師を辞めて最初は古着屋の店員をやりました。まだ、ちょっとおしゃれ関係の仕事に未練があったのですね。しかし、時給が悪くて、生活が成り立たない。それで、次に居酒屋の店員をやりました。夜間働くと時給がよく、そこそこの暮らしができたのです。しばらく飲食店の店員をやりましたが、「これを30歳、40歳まで続けていくのか?」と疑問を感じ、「堅実に事務職をやろう」と思い立って、今度は自治体の図書館の受付職になりました。しかし、しばらくやっていると、本などの貸出や返却のパソコン入力だけをしている日々に、空しさを感じてきました。
そんなふうにフリーター生活をしている間に、25歳を過ぎ、さすがに焦りだしました。手に職をつけて、一生できる仕事に就こう。何がいいだろう。自分はやっぱり、事務職よりも人に接する仕事が向いている。それに、昔から身体能力を高めることには関心があった。それなら、理学療法士かな? だんだん実感がわいてきました。
やがて、理学療法士の資格が取れる専門学校に行こうと決心しました。しかし、それにはまず、授業料を稼がなければ。では、どんな仕事でお金を稼ごうかと思ったときに、介護の仕事がいい、と思ったんです。理学療法の現場にも近いですし、世の中の役に立つ。それに、高齢化社会の中で、必ず必要とされる仕事だろう、と。
深く考えたわけではありませんが、さっそく介護の仕事を探し始めました。学校と家の間にある老人ホームや高齢者施設はないかな。そんなノリで探し、面接を受けて入ったのが、今のデイサービスなんです。
次回は、介護の仕事に本腰を入れ始めるSさんの様子をお伝えします。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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