■書名:“理由を探る”認知症ケア ~関わり方が180度変わる本
■著者:裵 鎬洙(ペ・ホス)
■発行元:メディカル・パブリケーションズ
■発行年月:2014年8月6日
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認知症がある利用者の言動には、本人なりの理由がある。それを探る手がかりとは?
認知症ケアの現場で、利用者の言動の理由がわからず思い通りにケアができないと、悩む介護職は多い。そのとき、つい「どう対処するか?」に意識が向きがちになる。注意すべきは、そのときの目的が、“介護職”の困りごとを解決するためになってしまうことだ。当然だが、「どうしたらいいだろう」と悩んでいるのは介護職だけではない。利用者本人も混乱しているのだ。著者・裵 鎬洙(ペ・ホス)さんは、次のように指摘する。
<そもそも、「認知症である本人が、日常生活の中で、どんなときに、どんな場所で、何につまずいているのか?」という「理由」がわからないまま、「つまずいている人にどう対処するか?」という解決方法ばかりを追い求めることは、本末転倒ではないか>
<これからは、この「本人の混乱」に目を向け、『本人は何につまずいているんだろう?』という目線を持ち、そのつまずきを支えるケアが求められます。>
そこで著者が提案するのが、本のタイトルにもなっている“理由を探る”認知症ケアだ。
たとえば利用者がいきなり「家に帰りたい」と言い出したとき。わけがわからないまま「どう対処すればいいだろうか」と考える前に、まずは「家に帰って何をしたいのか?」「言い始めたきっかけは?」など、その人なりの理由を探る。それが適切なケアを導き出す近道だと言う。
著者は「“伝家の宝刀”のようなケア方法は存在しない」と断言する。
<書店に行けば、いわゆる「困ったときはどうすればいいか?」というケア方法を書いている書籍に出会えますが、その方法が誰にでも最適な方法とは限りません>
<大切なのは、「その方法が適している理由」なのです。>
ではどうすれば、“理由を探る”認知症ケアができるようになるだろうか。
本書はまず、“理由を探る”ケアを難しくしている要因についての説明からスタートする。
要因のひとつとして取り上げるのが、介護職自身の内面にある「価値観の枠組み」。たとえば次のような事例になる。
●「答えは一つ」という枠組みに影響され、ほかの可能性に目を向けられない
●「問題に対処する」という枠組みに囚われ、本人なりの理由を探るより、問題解決だけに関心が向く
●一度「いつも○○している」という枠組みが出来上がると、その場面ばかりが目についてしまう
●「認知症が進んだ」という枠組みで、変化の背景や詳細を把握することに意識が向かなくなる
こうした枠組みが自分の行動や選択に影響し、理由を探ることを妨げているのではないか? まず、そのことを自覚することが大事なのだ。
そのうえで、以下のようなケアのヒントも紹介される。
●「うまく介助できないとき」の理由を探るヒントは「うまく介助できたとき」に隠されている
●本人の習慣をヒントに探る
●本人の言動のきっかけを発見するポイントは、本人が体験していることに目を向けること など
書かれている内容は、認知症ケアに限らず、介護の原点ともいえるものだが、気づいていないこと、見過ごしていることが多いのではないだろうか。これから認知症ケアに携わる人はもちろん、認知症ケアに行き詰まりや限界を感じている人にも発想を広げるヒントになるだろう。
さらに、ケアの可能性を広げるために必要な心構えやコツ、コミュニケーションスキル、利用者の家族の支え方についても、それぞれ章を立てて解説。チームリーダー等のスタッフにも役立つ、中身の濃い一冊となっている。
<小田>
著者プロフィール
裵 鎬洙(ペ・ホス)さん
介護福祉士・介護支援専門員・主任介護支援専門員。関西学院大学卒業後、訪問入浴介護サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターで相談業務に従事する。現在は、研修オフィス・アプロクリエイト代表、医療法人社団菫会名谷病院在宅支援事業部主任相談員、コミュニケーショントレーニングネットワーク講師として活躍中。