■書名:【ポケット介護】楽になる認知症ケアのコツ
■著者:大誠会認知症サポートチーム
■発行元:技術評論社
■発行年月:2015年9月25日
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現場の生の声が凝縮! 認知症の本人も介護スタッフも、笑顔になる認知症ケアのコツ
本書は、認知症の人に接する介護スタッフなどに向けて、「現場の知恵」をコンパクトにまとめたものだ。
全章にわたってイラストと図解が多く入っており、わかりやすく解説されている。また、単なる介護の方法だけを説いているのではなく、認知症の人や介護をする人の気持ちに寄り添った内容になっている印象を受ける。
まず、認知症の種類などを紹介する「そもそも、認知症って何?」から始まる。必読なのが「私たちの認知症ケア 大誠会スタイル」という内容。認知症のケア施設である「大誠会」が、長年にわたって構築した利用者に対する心構えや大切にしていることを紹介している。
続く2章目「認知症の人と共に生きるコツ」では、下記のことを紹介している。
●認知症の人は「病気であるという自覚がない」
●進行に応じたコミュニケーション方法
●認知症の人が求めていること
わかっていたようで理解していなかったことや、認知症の人とのコミュニケーションの基本など、を再確認できる内容だ。対応につまずいたときに初心に帰って読み返すのに適しているのではないだろうか。
また、はじめて認知症の人に接するときの心構えとしても、もってこいの内容となっている。
認知症の人は、日常の出来事や人の顔を忘れる、といった症状だけではなく、生活リズムの乱れや睡眠障害なども起こしやすい。また、身体機能が衰えることにより、転倒したり排泄が困難になるケースも発生する。
本書では、下記のような日常生活で起こるさまざまな障害への対応も紹介している。
●転倒を防ぐためには…家の中での転倒危険箇所のチェック
●トイレでうまく排泄できないときの対応方法
●食事や入浴のケアのコツ
また、「妄想」「帰宅願望」「徘徊」「幻覚」など、認知症特有の困りごとがある。中には身体的攻撃や罵声を浴びせられるといったケースも。
本書では、これらの困りごとの対処法や予防法についても、「うまくつきあう」と表現して紹介。
認知症の人に寄り添う介護スタッフにとって、困りごとは日常的に起こる。困りごとが連続で起こるケースも多々ある中、「うまくつきあう」という言葉は、気持ちが楽になる表現ではないだろうか。
本書によると、認知症の困った症状は、周りのケアの影響を受けることが多く、介護スタッフが関わり方を変えれば、予防したり減らすことは可能だという。
どうすれば「うまくつきあう」ことができるのか。それについて本書では、困った症状がでてしまうきっかけとして、下記を挙げている。
●行動や言動を否定されたとき
●自分では正しいと思っているのに、怒られたとき
●話をきいてもらえなかったとき
●やりたいことを止められたとき
●自分のしたくないことをさせられたとき
●プライドが傷つけられたとき
突然の困った症状にも、必ず原因があるとして、その原因を知り、利用者の不安や苛立ちをどうすれば解消することができるのか解説。また、「あの人が財布を盗んだ」といった物盗られ妄想などの思い込みの仕組み、「家に帰りたい」という帰宅願望はなぜ起きるのかも紹介している。
本書はポケット版なので、持ち運びにも便利。気になることを、すぐにその場で調べることができる。ビニールカバー付きで折れや汚れもつきにくく、さまざまなシーンで活用できる。
<認知症の人の生活全般を支えるために、介護・医療・福祉など、さまざまな面から認知症のケアに関わる多種の専門職が、長年培ってきた知識と経験をふまえ、熱い思いを込めて書き上げました>
その言葉の通り、現場の生の声が凝縮された一冊となっている。
「ケアのつぶやき」というコラムもリアルな内容だ。「毒が盛られている」と言って、病院食を口にしなかった利用者が、食事できるようになった方法や、受診を嫌がる利用者が、進んで病院を訪れるようになった話など、実際のエピソードが収録されている。
体をさすってあげたら安心してもらえた、帰宅願望がある利用者に見晴らしのよい施設の場所を案内したら落ち着いたなど。「ちょっとした気配りが利用者を笑顔にするのか」と、改めて考えることができる内容となっている。
<松原圭子>
著者プロフィール
大誠会認知症サポートチーム(たいせいかい にんちしょうサポートチーム)
大誠会と久仁会を中心とした医療と福祉のまちづくりをめざす「大誠会グループ」の中で立ち上げた認知症に対するアプローチを行うチーム。多職種がそれぞれの専門性を生かしながら、一人ひとりの患者に対する関わりを調整し、認知症の人・支える人の両方が笑顔になる支援を行っている。