■書名:あおいけあ流 介護の世界
■著者:森田 洋之, 加藤 忠相
■発行:南日本ヘルスリサーチラボ
■発行年月:2016年8月31日
>>『あおいけあ流 介護の世界』の購入はこちら
型やぶりだが利用者も介護者も笑顔になる「あおいけあ流」の介護とは?
介護スタッフが、末期がんで余命いくばくもない利用者とともに温泉旅行に行く。
認知症の高齢者が小学生と一緒になって庭でギャングごっこをする。
このようなエピソードを聞いて、どのような印象を持つだろう。
ほのぼのとしたイメージを持つ人もいるかもしれないが、多くの人は「危ない」「ケガでもしたら大変」「旅先で何かあったら」など、その行動を無茶だと捉える人も少なくないのではないだろうか。
先に紹介したエピソードは、本書の著者である加藤忠相さんが運営する介護施設で実際にあった出来事だ。加藤さんの会社「あおいけあ」は、小規模多機能型居宅介護を運営している。小規模多機能型居宅介護は、利用者にとって必要なサービスを柔軟に、定額料金で提供できるのが特徴だ。
たとえば、まだ利用者がそれほど介護を必要としていないときは、デイサービスに通所する。自宅で介護したい人のためには、ヘルパーも派遣する。ショートステイもでき、「あおいけあ」では最終的には看取りにも対応できる。国の方針として、この小規模多機能型居宅介護を今後8倍に増やすことが決定しているという。
本書では、加藤さんが運営する施設でのエピソードを中心に、「自立支援とは」「利用者も家族もスタッフも笑顔になる介護とは」などを紹介している。加藤さんと医師の森田洋之さん、特別養護老人ホームでの勤務経験がある元看護師の女性、男子学生が登場し、対話形式で構成されているのでとても読みやすい。
「あおいけあ」の介護のモットーは「人間関係・信頼関係を築くこと」。そのためには基本的に"何でもしていい"という。利用者や、利用者の家族と信頼関係を築くために、マニュアルに沿った対応ではなく、スタッフが自ら考えて行動する。前述した「末期がんの利用者との旅行」や、「高齢者が小学生とギャングごっこ」は、そうした強固な信頼関係があってこそ実現したものだ。
利用者に対するケアも、「できること」にスポットを当てているのが特徴だ。加藤さんによると、介護現場では「排せつができない」「食事ができない」「歩けない」など、利用者ができないことに注目しがちだという。
「本当はみんな、「出来る」ことだってたくさんある。「出来ること」に注目して支えてあげることで、「出来ない部分」が目立たなくなることさえあります。これこそが自立支援」と加藤さん。自立支援が進めば、スタッフが世話する頻度も減り、コストカットにもつながる。ねばり強く利用者と接することで、寝たきりだった高齢者が畑仕事をするまでに回復したエピソードも収録されている。
また、「地域とのかかわり」の重要性についても解説。多くの高齢者は、歳をとっても世話になるだけではなく、誰かの役に立ちたいと考えている、と加藤さんは話す。認知症や体が不自由になったら社会から断絶され、施設に収容されて、世話されるだけの身になることは、高齢者にとっても地域にとっても大きな損失であると語る。
<地域との関わりの中で、高齢者が持っている力が発揮されれば、その瞬間、お年寄りは「介護される側」から「地域資源」に変わるんですよ>
「あおいけあ」はスタッフの定着率も高く、辞める人がとても少ないという。皆、施設や仕事に誇りや愛着を持っており、中には施設で結婚式を挙げた人もいるというのだから驚きだ。本書では、施設で働くスタッフのインタビューやコラムも掲載。型破りな介護方法に「現実的ではない」と感じる人もいるかもしれない。しかし、利用者への接し方や自立を促すケアなどは、介護の仕事をする上での大きなヒントになるはずだ。
著者プロフィール
森田 洋之(もりた・ひろゆき)さん
南日本ヘルスリサーチラボ代表。鹿児島医療介護塾 まちづくり部長。一橋大学経済学部卒後、宮崎医科大学医学部入学。平成21年より北海道夕張市立診療所に勤務し、同診療所所長を経て、現在は鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動している。
加藤 忠相(かとう・ただすけ)さん
株式会社あおいけあ代表取締役社長。東北福祉大学社会教育学科卒業。同学卒業後に横浜市の特別養護老人ホームに就職。3年後に退職し、25歳であおいけあを起業。小規模多機能型居宅介護・グループホームを中心に、地域住民を巻き込みながら高齢者の自立支援を行っている。2012年「第一回かながわ福祉サービス大賞」において大賞を受賞。