■書名:認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ
■著者:右馬埜 節子
■発行:講談社
■発行年月:2016年3月22日
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説得するより、納得させること。認知症の人が落ち着く「引き算の介護」とは
本書の著者である右馬埜節子(うまのせつこ)さんは、これまで2,000ケース以上の相談に応じてきた認知症相談員。
本書では、多数の認知症の人と接する中で生まれた、認知症の人に落ち着いてもらえる話し方や、言葉のかけ方を紹介している。
認知症の人は、さまざまな要因によって日々記憶を失っていく。
そのため、右馬埜さんは、認知症の人が住む世界を「引き算の世界」と語っている。
一方、私たちが住んでいる世界は、毎日の生活の中で記憶を蓄える「足し算の世界」。
見ている世界が違うのだから、意思疎通が難しくなるというのも当然かもしれない。
だからこそ、認知症の人を理解するためには、こちらが「引き算の介護」で、歩み寄ることが大切なのだという。
「引き算の介護で歩み寄る」とは、具体的にどのようなことだろうか。
認知症の人によくありがちな「食事をしたことを忘れる」を例に挙げて説明してみよう。
このような場合、介護者は食事をすでにしたことをわかってもらおうと、食べ終わった後の茶碗を見せたり、「さっき食べましたよ」と説明をすることが多いのではないだろうか。
しかし、すぐに忘れてしまう認知症の人からしてみれば、「食べましたよ」と言われてもまったく身に覚えがないから、混乱するばかりだ。
そんな時に「引き算」の言葉かけである。
引き算の介護では、認知症の人に「説得する」よりも、「納得してもらう」ことに重点を置く。
納得してもらう言い方は様々あるが、「炊飯器のスイッチを入れ忘れました」という言い方もそのひとつ。
こう言うことで、認知症の人は、自分は否定されたという負の感情を持つことなく、今は食事ができないという状況を納得できるのだという。
<認知症の人に、私たちの世界での正しいことを、「足し算」のように押し付けても、本人を混乱させるばかりです。
言われた側が取り乱したり怒ったりすると、言う側にもストレスがたまります。
どちらも疲れる負の連鎖が、延々続くことになるのです>
そのほかにも、本書では認知症の人のさまざまなエピソードを紹介している。
以下はその一部だ。
・「ものがなくなった」「盗まれた」と言う
・家にいるのに、どこかへ「帰りたい」と言う
・入浴を拒否する
・ヘルパーを家に入れず「介護は不要だ」と言う
・暴れている人を止める行動
各エピソードは漫画で紹介されているので、とてもわかりやすい。
実際に効果を発揮した言葉は太字で引用されている。
言葉かけのポイントやその他の例も掲載されているため、さまざまなケースに応用できるのではないだろうか。
また、心強いのは、認知症の進行に応じた言葉かけについて説明されていることだ。
認知症の症状がまだ軽いときは、「すぐ忘れる」に該当しない場合がある。
本書では、一人の認知症の人を例に挙げ、「発症期~初期」「初期」「中期」「中期~後期」「後期~最期」それぞれに応じた言葉かけの工夫を紹介している。
本書を読み終わって、引き算の言葉かけは、認知症の人に寄り添う方法のひとつであると感じた。
認知症の人は「青春時代など、過去の時間で止まっている人」「いまだ現役バリバリの会社員のつもりでいる人」など、さまざまだ。
一人ひとりの生きざまやプライドを理解し、その世界に介護者が入り込めば、対応がスムーズに進むことも多いのではないだろうか。
著者プロフィール
右馬埜 節子(うまの・せつこ)さん
「認知症相談センターゆりの木」代表、株式会社日本エルダリーケアサービス執行役員。
1993年から認知症専門の相談員として介護の仕事に携わる。
2003年に自身が担当する認知症の人の居場所として「デイホームゆりの木中野」を設立し、その後、家族介護者の拠り所として「認知症相談センターゆりの木」を開設。
現在、「中野区地域連携型認知症疾患医療センター」(東京都)の専門相談員を兼務するほか、研修・指導・講演にも携わっている。