■書名:認知症治療の9割は間違い―全国に広がる「コウノメソッド」最前線
■著者:河野 和彦
■出版社:廣済堂出版
■発行年月:2017年2月
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介護者もラクになれる認知症治療法「コウノメソッド」の最新情報!
認知症の人の介護をしている介護職の中には、暴れる、徘徊する、大声でののしる、猜疑心が強く「財布を盗った」と言う、などの行動に困った経験がある人もいるのではないだろうか。
認知症は不治の病だからとなかば諦めて、日々の世話に追われて心身ともに疲れ切っている人は、患者家族にも介護職にも多いかもしれない。
そうした現状を目の当たりにして、認知症の人はもとより、その介護者の苦労の軽減(介護者優先主義)を掲げた認知症治療法「コウノメソッド」を考案、実践してきたのが、医師の河野和彦氏だ。
本書は、大評判の『医者は認知症を「治せる」』に続く第2弾で、コウノメソッドの最新状況が紹介されている。
<認知症は病気ですが、高血圧や糖尿病のような病気とは違う点があります。必要なのが医療だけではないということです。
認知症の患者さんの場合、医療に加えて「介護」も必要になります。介護する人がセットになっていなければ、患者さん本人の生活も治療も成り立ちません。
認知症は単なる疾患ではなく「社会的」疾患です。ひとりの患者さんがいれば、背後には必ず介護する人がいます。>
認知症の症状には、記憶障害、失見当、判断力低下など、脳組織の変性から起きる「中核症状」と、中核症状の進行とは必ずしも比例せずに現れる「BPSD(周辺症状)」がある。
さらにBPSD(周辺症状)は、暴れる、暴言を吐く、徘徊するといった「陽性症状」と、抑うつ、無気力、無反応といった「陰性症状」の2つに分けられる。
BPSD(周辺症状)の「陽性症状」こそが、介護者が困ってしまう症状と言われ、「コウノメソッド」はこれを抑えることを重視した治療法だ。
また、認知症は「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」「ピック病(前頭側頭型認知症)」の4タイプがあり、それぞれ処方される薬も違ってくる。
しかし、認知症=アルツハイマー型と思い込み、興奮を促す「アリセプト」という薬が安易に処方され、陽性症状を悪化させてしまうことが多いと河野氏は指摘。認知症のタイプと患者の様子を見極めながら、できうる限り少量の薬で治療すべきだと主張している。
認知症の薬は、陽性症状に有効な抑制系薬剤と、陰性症状に有効な興奮系薬剤とに大別される。
コウノメソッドでは、薬による副作用ができるだけ出ないように、介護者が認知症患者の日常の様子を見ながら調整する方法(家庭天秤法)が推奨されている。本書には4タイプの認知症の特徴と症状、それぞれに有効な処方薬もわかりやすく示されていて、参考になる。
また、「フェルラ酸」「ルンブルクスルベルス」というサプリメントも効果が期待でき、コウノメソッドに新たに取り入れているという。
さらに、コウノメソッドが、中枢神経系疾患の治療にも有効で、いくつかの難病の改善事例が紹介されているのも興味深い。
著者の河野氏は、自分は医学部に入れるような成績ではなく、哲学とドイツ語が得意な文系人間だったとあとがきに書いている。そのような、いわば「医学部の落ちこぼれ」だったからこそ、エビデンス(科学的な証拠)にこだわらず、臨床の現場で起きている事実に目を向け、認知症の人だけではなく、その介護者にも注意が向けられるようになったのではないだろうか。
認知症患者に関わる家族はもちろん、介護を行う介護職に対しても、温かいエールが込められた1冊だ。
著者プロフィール
河野 和彦(こうの・かずひこ)さん
愛知県名古屋市生まれ。名古屋大学大学院医学系研究科老年科学博士課程修了後に、同老年科学医員となり、講師も担当。愛知県厚生連海南病院老年科部長、共和病院老年科部長を歴任し、2009年に名古屋フォレストクリニックを開院。2011年、読売新聞「病院の実力」認知症編で、初診者数日本一と報道される。重症の認知症でも改善させる信念を持ち、自分が治せない患者は他では治らないという覚悟で診療にあたっている。