■書名:肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい
■著者:西山 耕一郎
■出版社:飛鳥新社
■発行年月:2017年5月
>>『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』の購入はこちら
介護現場でも活用できる!「のど」を鍛えて脳も体も健康に
「肺炎は老人の悪友」という言葉があるそうだ。肺炎が高齢者にとって、切っても切れない腐れ縁のような身近な存在であることを実にうまく表現している。
長い間、日本人の死因は「1位:がん、2位:心臓疾患、3位:脳血管性疾患」がトップ3で、肺炎は第4位だった。
それが2011年に肺炎が脳血管性疾患を抜いて3位となり、そのまま現在に至っているという。
それは、嚥下能力の低下により誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が増加したためだ。飲み込み力(=嚥下能力)の衰えはかくも恐ろしい結果を招く。
しかも、その低下はすでに40代から始まっているという。しかし、のどを鍛えれば飲み込み力は回復する、と励ましてくれるのが本書である。
筆者の西山さんは、30年にわたって耳鼻咽喉科の医師として診療を続け、約1万人の嚥下障害の患者さんを診てきた嚥下の専門医だ。
本書はその豊富な臨床経験に裏付けされた内容が満載で、説得力がある。
「のど」という器官の機能の説明から始まり、飲み込み力が衰える原因や兆候をわかりやすく説明。
そして飲み込み力がアップする8つのトレーニング、誤嚥を防ぐ食べ方9項目を紹介。また、のどにまつわるQ&Aも掲載されている。
のどは「嚥下」「呼吸」「発声」の3機能が集中した器官で、それはあごから「宙づり」されているような構造になっている。それを筋肉や腱が支えているのだが、加齢とともに筋肉が衰えて下がり、嚥下能力の低下につながるという。
しかし、他の筋肉と同じようにトレーニングして筋肉を鍛えれば、嚥下機能は保つことができる。
おでこと手で押し合いをする「嚥下おでこ体操」と、あご先に両手の親指を当てて押し合いをする「あご持ち上げ体操」をメインに、のど周辺の筋肉を鍛える数種類のトレーニングを紹介。
加えて、ペットボトルや風船を膨らませて肺活量を増やし維持する「呼吸トレーニング」と、高い声を出して歌ったり、のど仏が上下に動くように発声する「発声トレーニング」を組み合わせれば、のどは鍛えられる。
それぞれのトレーニングには、イラストも添えられていて、一目でわかりやすい。
さらに誤嚥を防ぐ「食べる」ルール九ヵ条には、「ながら食い」は厳禁、「大口」で食べない、「早食い」もダメといったルールが並ぶ。
食べる姿勢も「軽くおじぎする」姿勢がよいとアドバイス。これも椅子、ベッドでの姿勢をイラストでわかりやすく説明してある。
嚥下機能を回復させて口から食べられるようになると、以前とは別人ではないかと思うほど、表情に生気が戻り、感情表現が豊かになる。そして、コミュニケーションなどの応答性もしっかりしてくるのだ。
著者の西山さんは、そんな患者さんに多く出会っているという。
<私は、人間はのどから衰える生き物であると同時に、のどからよみがえる生き物でもあると思っています。「口から食べる」「ちゃんと飲み込む」という行為には、わたしたちの脳や体をよみがえらせる力が宿っている。だからわたしたちは、脳や体を末永く元気に動かし続けていくためにも、食べる機能、飲み込む機能を衰えさせないようにしていかなくてはならないのです。>
本書にはカラオケ、笑い、おしゃべりも発声トレーニングとして有効と紹介され、掲載されているトレーニングは、組み合わせて行える。どれも介護の現場で実際にできそうなことばかりだ。
日々のケアやレクリエーションに取り入れれば、「生きる力」を取り戻すために大いに役立ちそうだ。
著者プロフィール
西山 耕一郎(にしやま・こういちろう)さん
1957年、福島県生まれ。北里大学医学部卒業。医学博士。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医師として北里大学病院や横浜日赤病院、国立横浜病院などで研鑽を積む。
病棟医時代に「術後の誤嚥性肺炎の危険性」を経験したことをきっかけに、嚥下治療を専門分野にして、それらの人命を救おうと決意。30年間で約1万人の嚥下治療患者の診療を行う(耳鼻咽喉科・頭頸部外科としては約30万人を診療)。現在、医療法人西山耳鼻咽喉科医院理事長。