■書名:がんばりすぎずにしれっと認知症介護
■著者:工藤 広伸
■出版社:新日本出版社
■発行年月:2017年12月
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認知症介護をラクにする秘訣!柔軟な発想で、介護職も認知症の人も笑顔に!
認知症の家族を介護して6年になる著者の工藤さんが、「ムリをせず、ラクをする介護」の秘訣をわかりやすく解説した1冊。介護に対する著者の柔軟な発想や考え方、工夫の数々には、目を見張るものがある。
家族による介護の視点で書かれているが、介護職をはじめ介護の仕事に就くすべての人にとって新たな気づきがありそうだ。
著者の工藤さんが「しれっと認知症介護」つまり「ムリをせず、ラクをする介護」をめざすのは、介護者自身の幸せが認知症の人の幸せにつながると考えているからだ。
介護する側のイライラは、介護される認知症の人に伝染するものだ。だから、よい介護のためには、介護者がストレスを溜め過ぎずに幸せでいることが基本となる。
本書では、「ムリをせず、ラクをする介護」を実践するための具体的なアドバイスが数多く紹介されている。中でも、嘘の罪悪感との向き合い方についての言葉が印象深い。
<嘘で、認知症の人も介護する人も幸せに暮らせるのなら、罪悪感など捨てて、嘘を楽しめばいいとわたしは思います。認知症介護で、本当に覚えておかなければならない言葉は、むしろこちらです。
「嘘も100回つけば、真実になる」>
介護の場面で相手を思ってついた嘘に罪悪感を持つ必要はない、嘘がなければ、もっと大変な介護になっていたはずと工藤さんはいう。嘘をついてもいいと考えられれば、介護をする人の心はどれほど軽くなることだろう。
発想の転換で、介護のイライラから解放される実例も多い。
たとえば、認知症の人が同じ物を何個も買ってしまう困りごとの対応では、購入金額がそれほど大きくないなら、社会とつながっている証しとしてポジティブに受け止めるのだという。買ってしまったものをフードバンクに寄付するという方法もある。介護者の考え方次第で、イライラが社会貢献にまで変わる一例だ。
便利な「もの」を使う工夫も、認知症介護をラクにするためにはためらわない方がよい、と工藤さんはいう。
認知症でよくある「物を取られた」という妄想への一番の対処法は、探し物をできるだけ早く見つけること。工藤さんは、「キーファインダー」という受信機とリモコンのセットを使うことで、言い争いが激減したそうだ。
「今日は何日?」と1日30回以上質問されたときには、デジタル電波時計を購入。時計には、時間だけでなく日付や曜日までもが表示され、認知症の人にもはっきりとわかりやすい。何度質問されても指さしだけでよくなり、介護する側のストレスがぐんと減ったとのことだ。
さらに、認知症の人をほめて互いに笑顔になることも、介護をラクにする方法のひとつと言える。
<できないことが増えていく認知症の人を、ほめてその気にさせて生きがいを失わないようにすることも、介護する人の役割のひとつだと思います。(中略)
ほめることで認知症の人が生きがいを感じ、症状の進行がゆっくりになってくれたら、認知症介護がラクになるとしたら、こんなにうれしいことはありません。>
本書には、介護者が認知症介護で苦しまないための工夫が満載だ。
読んでいて心が軽くなったり励まされたりするのは、著者が介護の未来を信じて、常に前向きによりよい介護のために工夫を続けているからに違いない。
介護職をはじめ、認知症の人に関わるすべての立場の人の参考になる1冊となるはずだ。
著者プロフィール
工藤 広伸(くどう・ひろのぶ)さん
1972年生まれ。介護ブログ「40歳からの遠距離介護」など、執筆を生業にしている介護作家・ブロガー。なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。40歳の時、認知症の祖母と母のダブル遠距離介護を機に、介護離職。現在も東京~岩手間の片道500キロ・5時間を、年間約20往復している。
著書に『認知症介護を後悔しないための54の心得』、『認知症介護で倒れないための55の心得』など。