■書名:看護師も涙した老人ホームの素敵な話
■著者:小島 すがも
■出版社:東邦出版
■発行年月:2018年5月
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人生いろいろ。特別養護老人ホームに勤務する看護師が見た喜怒哀楽のドラマ
本書は、病院から特別養護老人ホーム(特養)に転職した看護師が、入居者との出来事を綴った実話集だ。
病院勤務だった看護師の小島さんがなぜ特別養護老人ホームで働くことになったのか?その仰天エピソードが序章になって本書は始まる。
小島さんが尊敬する先輩看護師が、結婚を機に「新居近くの老人ホームで働く」と言って病院を退職し、特別養護老人ホームに就職。
その先輩が勤務している特別養護老人ホームに半ば強引に引き抜かれる形で、小島さんも特別養護老人ホームで働くことになったという。
実際に働くことになるまで、小島さんが持っていた特別養護老人ホームのイメージは、以下のようなものだったそうだ。
<それまで私は老人ホームなんて「看護師の墓場」だと思っていた。暗くて、ドクターもいなくて、どんな仕事をするのかよくわからない怖いところだと思っていた。それは病院勤務をするなかで先輩看護師や医師の口から出た言葉で、私はそれらを聞いて全部真に受けていた。「あんなとこ、病院で働けなくなった高齢の看護師が隠居の場としていくとこや!」とまで言う人もいた>
しかし、実際の特別養護老人ホームは、明るい吹き抜けがあって、筋トレマシーンが並ぶ明るくきれいな場所だったことに驚いた小島さん。もともとリハビリに関わりたいと思っていた小島さんは病院を辞め、この特別養護老人ホームに勤務することを決めたそうだ。
本書には、小島さんが特別養護老人ホームで出会ったさまざまな人との関わりが19の話にまとめられている。
たとえば、以下のようなお話が掲載されている。
「爪切りとコミュニケーション」
汚いからと足の爪切りをさせてくれない入居者の方に「爪切りが趣味なんです」と言って切らせてもらう。
そうしているうちに入居者の方は爪切りだけでなく、会話をすることがうれしいということに気がつく。
「気難しい?入居者」
気難しい98歳の北田さんは、介護する人を選ぶ。北田さんは、自分が認めた介護職には手作りの人形をあげて、頻繁に呼びつけるようになる。
実は、ケアプランを見直されないままだったため、1人でトイレに行かねばならないことに不安を感じるようになっていたのに言い出せずにいた。
「母親のために恵方巻を…」
野口さんは重度の糖尿病。野口さんの息子さんは、大好きな母親のためにホームの職員に内緒で特大の恵方巻を食べさせようとする。しかし、海苔が乾いた喉に張り付き、野口さんは危うく命を落としそうに。
それがきっかけとなり、息子さんは母親のことを誰にも相談できず追い詰められていたことがわかる。
「スタッフの一大事」
ホームで入居者が使った衣類などの洗濯をしている岩下さんは、日焼けした肌に分厚い手を持つ漁師のようなおじさんだ。いつもは岩下さんが1人で屋上で洗濯物を干しているが、ある日たまたま日食があるからと小島さんや入居者が屋上にやってくる。
そのとき、岩下さんが脳梗塞を発症し救急車で病院へ運ばれる。小島さんは駆け付けた奥さんに、ホームで働いていたから発見が早くて大事に至らずに済んだと涙ながらにお礼を言われた。
特別養護老人ホームで、入居者やその家族との関わりの中でさまざまなことを学んだという小島さん。
詩吟が好きで周りの人とも気さくに付き合う入居者の平岡さんが、1人で入浴中に死亡した。娘さんは入居時から「父が死んでも連絡しないでほしい」と言っており、警察官が電話で連絡しても断られた。
警察官は「あんな人いるんですね」と言ったが、小島さんは引っかかりを覚え、次のように考えたという。
<人にはいろんな側面があり、私たちが知らない平岡さんの側面を、娘さんはよく知っている可能性がある。娘さんしか知らない平岡さんの側面が、娘さんをそういう気持ちにさせてしまったのだとしたら「あんな人」とは言えないと私は思った。
人の数だけいろんな人生があり、いろんな生き方があって、いろんなものを背負っていまに至るのだ。特養で働くようになってそう思うようになった。>
小島さんの入居者の方々に向けるまなざしは温かく公平だ。
入居者の方たちから学んで看護師として成長していく過程を見ることもできるし、人と人とが付き合うとはどういうことかを考えさせてもくれる。
介護に従事する人なら、本書に登場する人と似た人を思い浮かべるのではないだろうか。
そうしながら、今一度、人をケアする仕事に大切なことは何かを見直すきっかけをこの本は与えてくれるだろう。
著者プロフィール
小島 すがも(こじま・すがも)さん
キャンプとスノボが大好きなアラサー。映画も月に3本は観にいく。先日、陶芸教室に行き、お皿作りが楽しくてはまり気味。最近の事件は、愛犬のシーズーが天国に旅立ってしまったことと、急な引っ越し。ナースになってよく1人旅に行くようになった。お気に入りの場所は小樽。