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2018年12月28日

『認知症患者さんの病態別食支援:安全に最期まで食べるための道標』 | 「介護求人ナビ 介護転職お役立ち情報」


■書名:認知症患者さんの病態別食支援:安全に最期まで食べるための道標
■著者:野原 幹司
■出版社:メディカ出版
■発行年月:2018年7月

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認知症の方の「食」を支えるノウハウをオールカラーで詳しく解説

食べることは多くの人にとって楽しみであり、生きる活力にもつながる。
昨今、食事介助の方法を教える本も多く出版されており、人生最期のときまで口から食べるということは決して叶わぬ夢ではなくなってきている。

とはいえ認知症の方への支援では、食べることを拒否する、食べ方がわからない上に教えてもわからないなど、対応に苦労している介護職も多いのではないだろうか。

筆者の野原さんは、20年近く認知症の方の嚥下(えんげ)障害に取り組んできた医師だ。目の前の患者さんを何とかしたいという熱意のもと、誤嚥(ごえん)や肺炎に熱心に対応してきたが、施したケアが効かなかったこともあり悩むこともあったそうだ。

あるとき、認知症をひとくくりにして考えてきたことに気がつき、病態別の対応をしたところ、患者さんの状態の見え方も大きく変わったという。
その経験をもとに、国内外の論文を参考にしながら、仲間とともにまとめたものが本書である。

認知症は病名ではなく、脳の障害などをきたす原因疾患・病気によって生じる認知機能の低下を指す総称。本書では、四大認知症とされるアルツハイマー型、レビー小体型、血管性、前頭側頭型について、それぞれの疾患の特徴、それに合わせた食支援を詳しく解説している。

本書では、認知症のそれぞれの疾患の特徴は次のように一言で表されている。

・アルツハイマー型は「食べない」認知症
・レビー小体型は「誤嚥する」認知症
・血管性は「多彩な症状を示す」認知症
・前頭側頭型は「ケアが難しい」認知症


これを見ただけでも、症状の違いがはっきりわかり、対応の仕方も変わって当然だと気がつくはずだ。

認知症はどれも進行性の病気であるため、機能回復を目指す訓練や治療(キュア)ではなく、「機能に合わせた食事を選ぶ」「むせにくい姿勢を見つける」といった『食支援(ケア)』を行うことの必要性が丁寧に説明されている。

本書は、写真やイラストがカラーで豊富に掲載されていて、視覚的にわかりやすい。さらに重要な語句については、すぐ脇に説明が付け加えられていて理解の手助けになっている。
野原さんがこれまでに診察した事例も数多く紹介されていて、実際の介護現場でも参考になることだろう。成功例だけでなく、提案したケアがうまくいかなかった事例も載せられていて、失敗から学ぶこともできる。

食支援には避けられない誤嚥と誤嚥性肺炎についても一章を設けて解説。丁寧な解説で、介護職が過度の不安や恐怖をもたないように配慮されている。
また、薬が原因でむせたり食べられなくなったりすることも解説。「食べる」ということがあらゆる視点から捉えられていて、とても参考になる。

最終章では「終末期の対応」として、死を間近にした期間の食支援のあり方もまとめられている。
どんな医療行為を施しても、機能低下を食い止めることができないのが終末期だが、そのようなときだからこそ「食べる」ことで生を確認するのではないかと野原さんはいう。

終末期には、栄養摂取としての食事ではなく、患者さんの好きなものを食べてもらうのが基本となり、口に食べ物を入れる、それを飲み込むというやり取りが言葉ではないコミュニケーションとなる。
そのときに起こるかもしれない誤嚥性肺炎については、家族にきちんと事前に説明し、肺炎に対する心の準備をさせることも大事だと述べられている。

<死というゴールを目前にした人生の最終段階である終末期に彩りを添えられるのは「食」だと思います。最終段階において、もはや「食」は栄養摂取の手段ではなくコミュニケーションであり、残される家族にとっては別れの儀式になりうるかもしれません。
この最期に残されたコミュニケーションを、「医療・介護職の安心のため」という知識不足や怠慢で奪ってはなりません。少しでも「患者さんが食べたい」「家族が食べさせたい」というのであれば、最善の知識と技術を駆使して、そして覚悟を持って、その思いを叶えられるよう努める義務が医療・介護職にはあるのです。>


本書からは、野原さんが「食」を通して患者さんと向き合ってきた真摯な態度が、いたるところで感じ取れる。すぐに役立つ実用本としてはもちろんだが、介護や医療という職に従事する態度を振り返ることもできる一冊だ。


著者プロフィール

野原 幹司(のはら・かんじ)さん
1997年、大阪大学歯学部歯学科卒業。2001年、大阪大学大学院歯学研究科修了、博士号取得。大阪大学歯学部附属病院 鰐口腔機能治療部医員・助手等を経て、2015年より大阪大学大学院歯学研究科 高次脳口腔機能治療学教室准教授。専門分野は、摂食嚥下障害、栄養障害、音声言語障害、睡眠時無呼吸症、口腔乾燥症。

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