■書名:注文をまちがえる料理店
■著者:小国 士朗
■出版社:あさ出版
■発行年月:2017年11月
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接客担当は認知症の人!「注文をまちがえる料理店」発起人による話題の1冊
2019年3月、厚生労働省内の職員向け食堂で「注文をまちがえる料理店」が開店した。
「注文をまちがえる料理店」というのは、認知症を持つ人が接客を担当するレストランのこと。
2日間のイベントでは、職員にまじって厚生労働大臣も食堂を訪れて料理を注文し、その様子がニュースになったことを覚えている方もいるだろう。
「注文をまちがえる料理店」では、注文にも配膳にも時間がかかり、間違えてしまってもお客さんに受け入れてもらうことが前提となっている。
従来の接客業ではありえない、この型破りな企画を思いつき、発起人となって形にしたのが著者の小国士朗さんだ。
本書では、「注文をまちがえる料理店」が2017年6月に初めて開店するまでの経緯や企画についての説明、小国士朗さんの発起人としての思いなどが、穏やかな語り口でつづられている。
実際に接客スタッフを担当した認知症を持つ人たちの背景や、開店当日の様子などについては、サポーターとして参加した介護職の方からのコメントで紹介されている。
この特別なレストランが目指すのは、“接客する認知症を持つ人”と“接客されるお客さん”の双方が自然に笑顔になる空間だ。
万全の準備をして開店に臨むレストランではあるけれど、間違いはどうしても起きてしまう。そんなとき、接客する側もされる側も、おおらかな気持ちで
「忘れちゃったけど、まちがえちゃったけど、まあいいか」と言い合い、自然に笑みがこぼれるというような。
お客としてお店を訪れた人が、このレストランの意味について次のように語っている。
<「注文をまちがえる料理店」もまた、その存在によって認知症の状態にある人が抱える問題のすべてを解決するわけではありません。(中略)
ただ、間違えることを受け入れられる場所がある。
受け入れられる空気がある。
そこに価値があるのだと思います。>
認知症を持っていても仕事ができ、たとえ間違えたとしても寛大に受け入れてもらえるというのは、社会と関わりながら暮らしていけるということでもある。
これは大変画期的なことだ。問題の解決にはならないにしても、新しい大きな一歩であることには違いない。
また別のお客さんは、ガン患者である自分とも重ね合わせて気づきがあったと話す。「できることはある」と前を向くきっかけになったというのだ。
<失ったものは確かに多い。でも、できることだって、私たちにはたくさんある。そして失ったって、周りと社会ともっと関われる。関わっていい。それをひとつの形として明らかにしてくれたのが、「注文をまちがえる料理店」ではないか>
2017年に始まって以来、大きな話題を呼び、ついには厚生労働省を動かすイベントにまでなった「注文をまちがえる料理店」。
介護を仕事にする人であればなおのこと、本書に出会うことで、認知症や認知症を持つ人への新たな視点が得られることだろう。そして明日への元気がわいてくるにちがいない。
著者プロフィール(引用)
小国 士朗(おぐに・しろう)さん
「注文をまちがえる料理店」発起人。テレビ局ディレクター。1979年生まれ。2013年の心室頻拍発症を転機に、「テレビ局の持っている価値をしゃぶりつくして、社会に還元する」というミッションのもと、数々のプロジェクトを立ち上げる。「注文をまちがえる料理店」はとある取材時に思いついたことを形にしたもの。