■書名:これならできる! 身体拘束ゼロの認知症医療・ケア
■監修:山口晴保、田中志子
■執筆:大誠会認知症サポートチーム
■出版社:照林社
■発行年月:2020年5月
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身体拘束ゼロの認知症ケアを実現!勉強会にも使えるテクニック集
2000年の介護保険制度開始とともに、身体拘束は原則として禁止となり、
介護業界ではよほどの場合を除いて、身体拘束はしてはいけないということは周知されている。
一方、医療現場では患者の安全を守るためという大義のもと、身体拘束は認められている。
急性期で投与している薬の点滴を勝手に抜かれては命に関わる、病状によっては転倒のリスクがあるなど理由はいろいろだ。
しかし、身体拘束されている患者本人の尊厳は著しく損なわれているのも事実。
身体を拘束されると、身体的苦痛だけではなく、もの扱いされているという精神的苦痛も強く受け、人としての尊厳は大きく傷つけられる。
もちろん、身体拘束をしている医療従事者も、したくてしているわけではない。患者さんのことを思っているに違いない。
本書の監修者である田中志子さんも身体拘束をしないと考え行動してきた人だ。
実家である内田病院で、点滴を抜かないように縛られている患者の身体拘束を毎日解いて回ったのは四半世紀前のこと。
「理事長の娘が、余計なことをして……」と、現場の看護師に無視されながらも一人黙々と続けた行為がやがて理解されて、身体拘束ゼロの病院となった。
大誠会はこの内田病院のほか、訪問看護ステーションやデイサービスを含めた幅広い事業を展開しながら、地域医療に貢献している群馬県沼田市の医療法人だ。
グループの施設はすべて身体拘束ゼロのケアを提供しており、そこでの
ノウハウが詰め込まれているのが本書だ。
本書の構成は次のとおりとなっている。
Part1 身体拘束ゼロを実現するために
Part2 身体拘束ゼロ実現のための具体的テクニック
Part3 認知症へのトータルアプローチ:大誠会スタイルの実践
Part1「身体拘束ゼロを実現するために」では、身体拘束ゼロを実現するために取り組んできたことの概要と、その効果についての研究成果が挙げられている。
『パーソン・センタード・ケア』の考えをベースに、患者の要望に耳を傾け一緒に模索しながら、身体拘束をしないことで暴言・暴力、叫声、徘徊などのBPSD(認知症の行動・心理症状)の予防・軽減を図ってきた。さらにスタッフの負担も軽減しつつ、退院を目指すという一連のケアプロセスが「大誠会スタイル」だという。
そのための環境づくりの基本的考え方や工夫も示されている。
Part2「身体拘束ゼロ実現のための具体的テクニック」では、身体拘束をやめるために次の7つのシチュエーションでの具体的テクニックを紹介。
・基本的なコミュニケーション方法とケアの工夫
・点滴・チューブ等の挿入時の工夫
・水分・食事摂取時の工夫
・経鼻カニューレ・酸素マスク装着時の工夫
・膀胱留置カテーテル装着時の工夫
・脱衣・おむつはずしへの対応と工夫
・帰宅願望行動への工夫
どのシチュエーションにもフローチャートがついており、患者の状態によって適切な対応がすぐわかるようになっていて参考にしやすい。
Part3「認知症へのトータルアプローチ:大誠会スタイルの実践」は、大誠会の認知症医療・ケアの理念と、それに基づいたさまざまな実践例が紹介されている。
大誠会の理念は「地域といっしょに。あなたのために。」というもので、医療と介護が一体化した地域づくりを目指しており、グループの施設も紹介。認知症疾患医療センター、認知症サポートチーム、医療相談員、リハビリテーション部、看護部という病院内各部の連携、在宅と病棟をつなぐ支援、地域での自立・自律生活の支援など、実践例も数多く掲載されている。
<身体拘束廃止に必要なことは、身体拘束についての正しい知識を身につけて、身体拘束廃止のための“技術”を磨き、身体拘束をしないという決める態度(心)を身につけることです。それが、新たな身体拘束ゼロへの挑戦です。しっかりとした理念のもとで、身体拘束をしないテクニックを使って身体拘束ゼロを推し進めていくことは“良い”ケアのための通過点なのです。>
本書で紹介されているテクニックは、身体拘束ゼロのためという域を超えて、
認知症ケアのあるべき基本技術ともいえる。
認知症ケアに携わっている方々にはぜひ読んでいただきたい一冊だ。
監修者プロフィール(引用)
山口 晴保(やまぐち・はるやす)さん
群馬大学・名誉教授、認知症介護研究・研修東京センター・センター長/医師。1976年に群馬大学医学部を卒業後、群馬大学大学院博士課程修了(医学博士)。2016年9月まで群馬大学大学院保健学研究科教授を務めた。専門は認知症の医療(日本認知症学会専門医)やリハビリテーション医学(日本リハビリテーション医学会専門医)。脳βアミロイド沈着機序をテーマに30年にわたって病理研究を続けてきたが、その後、臨床研究に転向し、認知症の実践医療、認知症の脳活性化リハビリテーション、認知症ケアなどにも取り組んでいる。群馬県地域リハビリテーション協議会委員長として、2006年から「介護予防サポーター」の育成を進めてきた。また、2005年より、ぐんま認知症アカデミーの代表幹事として、群馬県内における認知症ケア研究の向上に尽力している。日本認知症学会名誉会員。
田中 志子(たなか・ゆきこ)さん
医療法人大誠会 理事長、社会福祉法人久仁会 理事長 、群馬県認知症疾患医療センター 内田病院 センター長。地元である群馬県内の大学病院で内科医として従事したのち、日本初めて医師として認知症介護指導者となる。現在は認知症を主とした老年医学を専門とし、その豊富な経験から、地域・医療関係者への認知症啓発活動に努めている。