■書名:なぜ、認知症のある人とうまくかかわれないのか? 本人の声から学ぶ実践メソッド
■著者:石原 哲郎
■出版社:中央法規出版
■発行年月:2020年6月
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認知症ケアに大切なことは?認知症の人も介護者も、みんなが笑顔になれる方法って?
「認知症の人の症状を少しでも改善したい」
「認知症の人とうまくやっていきたい」…
そう願いながら働く人に、新しい視点をくれる1冊だ。認知症の人と直接接する介護職に限らず、介護に関わるあらゆる人に一読をおすすめしたい。
本書の中心は、「第3章 認知症のある人とのかかわりで大切な3つの要素とそのアプローチ」にある。
この「3つの要素」とは、以下のようなことだ。
・私たちと同じ人権のある人として接する
・水平(対等)な人間関係を作る
・認知症についての適切な知識や情報を得る
正しい知識を踏まえた上で、認知症の人の人権を十分に配慮し、対等な人間関係を作ることを目指して関わり方を見直していけば、認知症の人だけでなく、家族や専門職にも笑顔の時間を増やしていける、というのが著者の考え方だ。
そして、「私たちと同じ人権のある人として接する」ためには、本人を抜きにして家族や専門職だけでは話をしない、決めない、という姿勢が大切なのだそうだ。
「専門職が認知症のある人の権利を意識してかかわるだけで、認知症のある人の人生は変わる」とも解説されている。
「認知症の人の人権に配慮」って、具体的にどういうこと?
「第3章 認知症のある人とのかかわりで大切な3つの要素とそのアプローチ」の冒頭には、接し方によって認知症の人の人生が変わってしまう事例が紹介されているので、理解の助けになることだろう。
家族とケアマネジャーが相談して、認知症の本人のためにデイサービスに通うケアプランを作るが、本人の意向はまったく考慮されず、結局本人の状態を悪くさせてしまうというもの。
切ない気持ちになる事例で、本人のケアプランが本人抜きに決められてしまうのは、「人権」のある人としてみなされていないためと言える。
次の「水平(対等)な人間関係を作る」に関しても、本書では「パーソン・センタード・ケア」という言葉を使いながら、ていねいに説明されている。
たとえば、「パーソン・センタード・ケア」の実践に必要な考え方の一つに、「あらゆる人々の価値を認めること」があり、基本となる価値観だ。
<認知症はあらゆる年齢で発症する可能性があります。さらに、障害される部位や程度は人それぞれ異なります。障害の程度や年齢など、いかなる違いがあっても人の価値は変わりません。また、認知症のある人の価値のみならず、周囲の人の価値も同じです。この価値観に基づくかかわり方ができるような環境づくりに取り組む必要があります。>
著者は、自身の診察が「パーソン・センタード・ケア」の理念にかなったものかどうかを確認するために、第三者の認知症当事者の方に見てもらっているとのこと。まさに「本人」の視点での検証だ。
そして、その認知症当事者の方とは、水平な人間関係にあるとも言えよう。
本書では、認知症当事者の生の声が多数紹介されていることにも驚かされる。当事者の率直な考えや気持ちが表れた文章に触れる機会は少ないので、ていねいに読んでおきたい。
認知症の人の心を知る貴重な一歩になるに違いない。
著者プロフィール(引用)
石原 哲郎(いしはら・てつろう)さん
博士(医学)・神経内科専門医・指導医、認知症専門医・指導医。専門は認知症診断・診断後支援、危機対応。高齢者の地域連携に関するファシリテーション、認知症と診断された人や家族への支援、ご本人同士の社会活動を共に行うとともに、情報を発信している。仙台市認知症サポート医、認知症初期集中支援チームドクター、おれんじドア実行委員。認知症ケアマッピング(DCM)上級ユーザー、日本認知症ケア学会代議員。
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